片思いー終わる日はじめる日ー

「病院てさ」(ばく)が、青いパジャマの袖で顔を隠してぽそっと言った。
「患者にあわせてるから暑いんだよな。……おれも、冬で…風邪ひいた」
「…………」
 ああ。
 お母さん、亡くなったんだっけ。
「いろいろ知られちゃったな、おまえに……」
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ。おまえでよかったって思ってるんだから」
 麦……。
「けど、中井…先生には、悪いこと、しちゃったな」
「…………」
 心臓に針が刺さった。
 痛い。
「おれ……」
 やめて!
「おれ、もうひとつおまえに…」
 やめて!
 大声を出して怒らせたくないから、両手で口をおおって首を振る。
「おれ、もうひとつおまえに言いたいことがある」
「言わないで!」
 思わず叫ぶみたいになっちゃって。
 病室中の視線をひとりじめ。
 あわてて立ち上がって、180度にぺこぺこ。
 おじさんたちは驚いた顔をしているけど、手で大丈夫だと示して笑ってくれた。
「……言わないで」
 椅子に腰をおろして麦だけに聞こえるようにささやく。
「…そうだろうと思った。それ誤解だぞ」
「…………ぇ」
 なんて?
 ぽかんと口をあけている自覚はあった。
 あったけど笑われるなんて。
< 143 / 173 >

この作品をシェア

pagetop