片思いー終わる日はじめる日ー
「あのね」
 おまけに井森のフォローまで。
 どうしてこうなるの。
「あの子は遠慮のない子だけど。ちゃんとひとは見てるの。だから、本気でいやがってるとわかったらもうしないから。ごめんね、許してやって」
「…いや別に、きみに謝ってもらおうと思ったわけじゃないんだけど。まいったな。……ごめん」
 へっ?
 いやだ。
 いきなり素直モードやめてぇぇぇぇ。
 思わずおさえた頬が……熱かった。

 * * *

「今日の黒幕はこいつだな」
 4時からの時代劇再放送と、すっかりオトモダチしてる今日このごろ。
 制服のまま台所でお茶をすすりつつ、カウンターテーブルの上の母さん専用の10型テレビでドラマを見ていたら、その主が買い物から帰ってきた。
「あなたってば、すっかりジジくさくなっちゃって。なんだってバレーやめちゃったのよ。こんなに早く帰られちゃ、じゃまでしようがないわ」
「うるさいなぁ、今いいところなのに」
 ドンッ!
 目の前に置かれたのは白いビニール袋。
「なによ、これ」
 母さんがそれをガサガサいわせて取り出したのは、牛乳の1リットルパック。
「ママも協力するわよ」
 なにに?
「…ってか、なんで? お気に入りのエコバックどうしたの?」
「買い物したあとで、もう入らなかったのよ」
 たしかに、足元に置かれたバッグはパンパン。
「衝動買い? めずらしいね」
「ママももう限界だからね」
「…………」
 なにがでしょ。
「…………」
「…………」
 不毛な母子の沈黙。
 あたしに親心なんて、わかると思うの?
 まつげをパシパシ(しばたた)くと、母さんがため息をついた。
< 30 / 173 >

この作品をシェア

pagetop