片思いー終わる日はじめる日ー
「お茶! おかわりっ」
「どーでしょ、この態度。そういうのはパパだけでたくさんよ!」
 テーブルの上からつかんだリモコンを、母さんがフェンシングの選手みたいにテレビに向ける。
 もちろん画面は切り替わってしまった。
「なにすんのよ、見てるでしょ」
「ママだって、このワイドショー見てるのよーだ」
 母子でリモコン争奪戦ってか。
 ――疲れる。
 ひとり娘だと思って親を甘やかしすぎたわ。
 いつまでもパパママって甘えてた子どもじゃないのよ。
 あたしはもう高校生なの。
 自分のことは自分で決めて!
 やりたいことをやるの。
 ただ、今はちょっと……。
 そう。
 今はちょっと、お休みしてるだけなんだから。

 * * *

 バビューン。
 モップを床にすべらせながらひと走り。
 掃除当番の場所のなかでは教室が一番好き。
 なにしろ、することが単純だから。
 黒板も端から端まで一気に拭くのが、か・い・か・ん。
「いいなぁ、相田(あいだ)さん。いつも元気で」
 聞き逃してしまいそうな小さな声で言ってほほえむのは、あたしたち1班のお姫様、大海(おおみ)ちゃん。
「あーあー、いいって大海ちゃん。雑巾なんか、あたしが洗うよ」
 入学して以来、なにからなにまで出席番号順だから、もちろん掃除の班だってアイウエオの出席者号順。
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