片思いー終わる日はじめる日ー
「ん? ああ、なに? 赤根くん」
「あの……。これ洗って、かたしてくれる?」
「はぁ?」
「モップ、さ。……きみのほうが扱いが上手だから」
「…………」
なんなんだ、それは。
言いかたはやわらかいけど、それ、意味わかってるの?
道具をきれいにしてしまえって。
あたしはきみの召使か!
まあ別に、たいしたことじゃないから引き受けるけど。
「ありがと」
「どーいたしまして」
最後まで聞かずに赤根が廊下に出て行くのを、ため息で追いかけたのは、赤根の行先を知っているからだ。
毎日、毎日、班のだれよりも早く掃除を終わりたがる。
「伊勢くんもいそぐ?」
6人のうち部活動をしているのは美術部の赤根と、将棋部の伊勢くんだけだから、小走りに教室を出て行く赤根の背中を追いながら、まだモップを握っている伊勢くんに聞いてみた。
「赤根は中井ちゃんに会いたいんだろ」
応えたのは石川。
あんたには聞いてない!
しかも、お下劣。
伊勢くんは困ったように眉を寄せて石川を見ると、眼鏡を中指で押し上げた。
「芸術はパッションですから――。描きたい衝動は我々にはわかりませんよね」
「…………」
わからない…のか。
うーん。