片思いー終わる日はじめる日ー

 掃除をすませて解散の号令をかけたあと、ふと美術部をのぞいてみるかと思ったのは、もういいかげん時代劇にあきちゃったせいもある。
 でも。
 すっぱりバレーはあきらめようとしている娘に、しつこく牛乳攻撃をしてくる母さんに返せる言葉が「もういい」だけだなんて。
 あたしのパッションはいずこ? だから。
 なにかに励む子を見てみたかった。
 …のかな?

「いや、しかし……」
 細く開けたドアからのぞいた美術室の様子に口あんぐり。
 世の中には物好きさんもいるもんだ。
 放課後まで椅子に座って、じぃーっとしていたい子がこんなにいるなんて。
「とてもなかに入る勇気は――ないかも」
 ため息をついたら、いきなり肩をたたかれた。
「まったまたぁ」
「わっ!」
 振り向かなくても声でわかる、中井だ!
「こんなとこにいないで、なか入んなさい。部長に紹介するから」
 え、え、え?
 ぷるぷる首を振る。
「あら、そう? じゃ、今日のところは好きに見てってちょうだい」
「――――はぃ」
 あー、びっくりした。
 文科系でも顧問て毎日いるものなの?
 先に室内に入った中井が、どうぞどうぞと手を振るから。
 恐る恐るなかに入って、まず、授業と雰囲気が違う…と思って。
 なんでだろう? のあとに気づいたのが、その道具。
 描いている子が全然見えないくらい大きなキャンバス。
「……ふすまか、あれは」
 やっぱり無理だわ、あたしに絵なんて。
「おっ」
 すっごい絵の具箱を発見。
 
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