片思いー終わる日はじめる日ー
「だれを描いてもいいのよ。…結構チャンスだぞ、男子」
 中井は女子の顔を順番に指さして、ウインクをした。
 好きな子を描けって、ひやかしているのはみんな理解したけど静かだったのは、やっぱり証拠が残るのはねぇ……、気まずいよね。

 あたしが選んだのは結局、中井。
 中井もみんなに交じって、教卓にもたれて鉛筆を動かしていたから、その真剣な顔がきれいだなぁって。
「うーん」
 ピカソ?
 心でつぶやいて、自分にへこむ。
 描けば描くほど「ちがーう」になる絶望。
 何度目かの絶望には、さすがにぷつっと集中が切れて。
 消しゴムをにぎりながらぼんやり窓の外を見る。
 うむ。
 絶好のランニング日和(びより)ですな。
 室内でちまちま絵なんか描いてる場合じゃないですな。
 (ふぅ……)
 見上げる空の青さに思い出した。
 そういえば――…
 あのとき、中井がグラウンドで描いていたのは(ばく)なのかな。
 中井も麦みたいなのが、シュミなのかしらん。
 えっ。
 中井。
 も?
「ひぇ――っ!」
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