片思いー終わる日はじめる日ー
「な…。なになに? びっくりしたぁ。相田(あいだ)? どした、ゴキブリでもでた?」
 中井が鉛筆を動かす手を止めて伸びあがる。
 びっくりしたのは大声を出しちゃったあたしも同じ。
「ちがっ……。なんでもありません」
 そう。なんでもない。
 あたしったら、いったいなにを考えたのよう。
『も』ってなに? 
『も』って。
「うぅーん。相田の元気は年寄りとしては少し分けてもらいたいけど、今のは心臓に悪いぞぉ」
 中井の笑い声につられて、みんながクスクス笑う。
「……どれ、もうだいたいできたかなぁ、ついでに見ようか?」
 中井が「うーん」と両腕を上げて、こきこきと首を振ると、
「先生、動かないでください!」と男子の声がかかった。

「うっひょ、赤根(あかね)!」
「ひゅーひゅー」
「なに、赤根、先生描いてんの?」
「よっ、年上シュミ!」

 最後のとびきりふざけたやつは、確かめなくても出席番号3番・石川。
 入学式の日の【総代を倒す!】発言以来、なにかと(ばく)をかまいたがるお調子者のチビ。
「そこっ、うるさいよ!」
「ひえぇ、相田、おっかねぇ。……そうか、おまえセンセに妬いてんだろ。いやーん、赤根さん、どうしてアタシを描いてくれないのぉ」
 なんだってぇ?
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