片思いー終わる日はじめる日ー
「相田、相田ってば」
だれかがあたしを呼んでいる。うるさいぞ。
自分の血が試験薬のなかで凝固するのを待ってボーッとしていたら、あたしの頭のなかはいつの間にかどうでもいいことでいっぱいで。
本当に麦は、中井が好きなのかな。
中井は美人だけど、オトナの教師だぞ。
(中井めあてで美術部か!)
中井になら女のあたしだって、あこがれるけど。
(でもこれは男子の気持ちとはちがうよねえ)
「相田っ!」
その切羽詰まった声に、今度こそ思考が中断。
はっと顔を上げると、横に座っている麦があたしの白衣のそでを引っぱっていた。
「わっ、やだ赤根! 血、たれてる、たれてる。なんでそんなに深く刺しちゃったのよ」
「だからやってくれって言ったじゃないか」
あたしを呼んでいたのは、今の今まで頭のなかであたしを悩ませてくれていた張本人。
もっとも現実のほうが今はもっとあたしをあわてさせてくれているけれど。
「なんで、あたしのせいにする?」
耳たぶからボタボタ血をたらしながら目の前でボーッと座っている麦に、あわてて白衣をめくりあげて。
スカートのポケットから出したティッシュをさしだしたのに。
麦はティッシュを受け取りもせず、自分の頭をあたしのほうに近づけてきた。
げっ!
「もうもう。なにやってんの、ほら! あ、あ、いやぁーー。見て、このティッシュ!」
血で真っ赤だよう。
さすがのあたしも、くらっ…とめまい。