片思いー終わる日はじめる日ー
「相田ぁ。首をひねってるひまがあったら手を動かしなさーい」
中井が白衣のポケットにつっこんだ両手で、すそをハタハタと揺らしながらやってくる。
ちょっと麦のキャンバスをのぞいて
「どーら」
あたしのキャンバスには顔を近づけたり遠ざけたり。
「センセ……。代わりに描いてくださいよぅ。ビンってむづかしい」
「だから言ったのに」
となりからぼそっと聞こえたつぶやきは無視。
「透明なものを描けっておかしくない? 透明人間は描けないでしょ」
「そうねぇ」中井があたしの肩に両手をおいてテーブルの上のビンを指さした。
「でも見えるよね、あれ」
だから困ってるんじゃん。
「相田はビンの端っこ、さわったことある?」
端っこ?
「ビンにそんなものないでしょ、センセ。丸いんだもん」
「おお! それそれ。それがわかるとはすばらしい」
なんなのよう。
ばかにしてる?
センセも麦なの?
「端っこはない。――なのに相田はビンの端っこを描いてる」
――え?
端を描いてる?
じーっと自分のキャンバスを見る。
見る。見る。見る。
「あぁぁぁぁああああ!」
「うっ」「うっ」
耳をふさいだのはとなりに座っている麦と、うしろに立った中井。
「てめ! 相田、うるせ――っ!」
遠くから椅子をガタガタさせて立ち上がったのは石川だ。
あんたも、うるさ――い。
「輪郭! あたし、ビンを線で描いてる」