片思いー終わる日はじめる日ー
「おおおぅ」首筋に当たる中井の息。
「上出来。いいね。100歩くらい前進だぞ、相田(あいだ)
「もとが幼稚園生……」
 (ばく)はもう存在も無視。
 ほめてくれた中井とあたし、ふたりだけの世界よ。
 じゃまするな。
「そしたら、輪郭を描かないでビンを描く方法を教えて、センセ」
「それは勉強と訓練だなあ。技術の習得ってやつだから」
 技術かぁ。
「つまり油絵を始めたばかりの相田が、自分の思うように描きたかったら、まず筆の使いかた、絵の具の混ぜかたから身につけなきゃならない。それってどう習得する?」
「…………」
 それならわかる。
 身に染みてるから。
「反復練習……」
「正解」短く答えた中井はやさしくほほえんでいた。
「相田はそれを知ってる子…だよね」
「…………」
 ずくんと胸に突き刺さった刃。
 バレーでしょ。
 バレーボールのことを言ってるよね。
 中井はあたしの三中バレー部のユニフォームを見ているから。
「わかった。ありがとセンセ……」
 でもそれは放っておいて。
 落ちこぼれは無視してよ。
< 49 / 173 >

この作品をシェア

pagetop