片思いー終わる日はじめる日ー
 あたふた駆けだしながら、それでもしつこく顔を見てやろうと思ったのに。
 見えたのはズボンのポケットに左手をつっこんで、教室に向かうあたしとは反対方向に悠々と歩いていく後ろ姿だけ。
「なに、あいつ」
 はりあっぷ!
『いそげ』って言われたでしょ?
 まさか、そんなこともわからない?
 …わけないだろぉ、総代だぞ。
 つまり、あいつは最低のマイペース男。決定!


 副担任のナカイは、あたしが駆けていくと背伸びしてぶんぶん腕をふった。
 そんなにしてくれなくたって、先生と生徒の区別くらいつくってぇ。
 A、B、C……、
 真新しい制服の群れの先頭にオジサンが3人続いて、Dでいきなり引率者がナカイだと、スーツ姿も「コスプレ?」って思うくらい生徒と区別がつかない若い先生だけど。
 とにかく並んで報告。
「センセ、アカネくん、入りました」
「う-ん、すべりこみか。いい性格してるねぇ」
「そう…すね」
 思わず同意しちゃってから気づくナカイのニヤニヤ顔。
「それ、きみが言う?」
「――ごもっともです」
「うぷぷぷ」
 (くちびる)に手を当てて笑う声までかわいらしい。
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