片思いー終わる日はじめる日ー

 * * *

 明日から中間試験。
 なのに、知らない連立方程式があるあたしを
「このへんは中学のおさらいみたいなもんですから、飛ばします」って、先生は軽くぶんなぐってくれた。
 うちの中学では習わなかった、絶対に。
 先生。あなたの定めたスタートラインにすら立てていない生徒を、どう思います? 悪いのはあたし?
 んもうもうもう。

 授業が終わっても身もだえていたあたし。
「おい」ふいに背中にひとの指を感じて振り返る。
「髪の毛、飛ぶ。なにアタマかきむしってんだよ」
赤根(あかね)にはわかんないの!」
「なんだよ、数学か?」
 ナンダヨ、スーガクカ!
 かるく言ってくれちゃって。
「できるひとはいいよね。お気楽で」

 おととい夏服に替わって、きちんとアイロンのかかった白いシャツを着ている(ばく)は、なんだか……、なんだかみんなとちがう。
「……なぁ。その、じーっとひとを見るの。くせなの? おまえ」
 えっ?
「入学式の日、校門で会ったときは無視してすたすた行っちゃったのに。式のあと、教室でいきなり振り向いて、何度もおれのこと、じーっと見たじゃないか。あれは、すっげぇこわかった」
 ええっ?
「おまえの目って、アザラシの子みたいに、黒目がまんまるなのな」
 えええっ?
「最近は、しようがないからこっちもいろいろ観察しちゃうけどなぁ。見られるほうはすっげぇ困るんだぞ。ほかのやつにも言われるだろ」
 ……顔が、熱い。
 このごろ、完全に麦の赤面症がうつっちゃったかんじ。
「まぁいいや。放課後、美術室に来いよ。試験に出そうなとこ、教えてやるから」
「ええ――っ」
「……だから、その耳元で大声も――やめろ」
「…ゃ、ごめん」
「ほかに用があるなら、まぁ…べつに――…」
「ない!」
 即答。


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