片思いー終わる日はじめる日ー
 帰りの掃除を終えて教室にもどると、井森がちょこんとあたしの机に座って待っていた。
「うふ、いっしょに帰ろ」
 部活は試験の1週間前からお休み。
 結局未だに帰宅部の情けないあたしとちがって、とりあえずテニス部でがんばっている井森は、部活が休みになるとすぐ、こうしてあたしを誘いにやってきた。
「今日はゲーセン行こ。スナックキャッチャー、中身変わってたよ」
 まぁ、こんなときでもないと校外でのつきあいなんてできないから、行きたい所がある子にはつきあおうと思ってきたけど。
 今日はダメ。
 今日はかんべん。
「井森くん、あたしたちは明日から試験なんだよ。今日はおとなしく帰りなさい」
「なんで? 1日くらい勉強したって、しようがないじゃん」
「…………」
 激しく同意。
 だけど、だけど、だけど。

 ちらっとうしろを見ると、ちょうど(ばく)が立ち上がった。
「じゃな、相田(あいだ)
 井森につかまったあたしの横を、知らん顔で通り過ぎていく。
「あ、赤根(あかね)くん、いっしょに行かない?」
 なんてことを!
 ぎくっと固まったあたしを見もせずに麦が手をひらひらと振った。
「ちぇ。やっぱりか。バイバーイ」
 こりない井森は、教室を出て行くうしろ姿に派手に手を振っているけど。
 どうしよう。
 聞かれた。
「やっぱり相田じゃないと返事もしないわね。相変わらずシャイだこと」
「…………」
 そういうかわいげのあるやつじゃないんだけどね。
 困った。
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