片思いー終わる日はじめる日ー
 もう今日の約束は…なし、かな。
 でも、今ならまだ帰らないでくれるかも。
「井森、あたしさ、あの…」「おう、相田(あいだ)
 ひとの決死の言葉をさえぎったのは石川。
「相田、今日いっしょに図書館行かねぇ?」
「なによ。うみはあたしとゲーセン行くのよ」
「おまえ、友だちいないの? よその組までえっちらおっちら来てないで、自分の組のやつと帰れば?」
「余計なお世話よ。あんたこそ、お勉強ならひとりですれば?」
 ああ、もう。ああ、もう。
「えー。勉強会ならわたしもママに電話して、まぜてもらおうかな」
 大海ちゃんまでぇ。
 どうして今日にかぎって、あたしってばこんなにもてるのよ。


「おじゃましまーす」
 そろそろとドアを開けて、すきまからのぞいてみた美術室にひとの気配はなくて。
「やっぱり……」
 帰っちゃったよ、ね。
 あーあ。
「うるさいのに捕まってたわりに、けっこう早かったな」
 えっ?
(ばく)、いるの?」
 あっ!
 あわてて口をおさえる。
 ……名前…呼んじゃった。
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