片思いー終わる日はじめる日ー
「いよいよ明日は本番だ」
 最後の練習のための場所取りに燃える石川は、もう気もそぞろっていうかんじなので、今日の掃除はいつになくハイペース。
 みんなもつられて、広い視聴覚室中に散らばって、ひとりたらたら窓をふいているあたしのそばにはだれもいない。
「あーあ、雨になっちゃえばいいのにな」
 もう梅雨だっていうのに、ちっとも雨が降りゃしない。
 衣替えしたあとの梅雨どきは、制服のブラウス1枚じゃ寒いので、中学の3年間、あたしはこの時期が大きらいだったのに。
 今はどう?
 まるであたしが梅雨空そのもの。
相田(あいだ)は、のーてんき女だもん、雨なんか降るわけないじゃん」
 (ばく)がモップを蹴りながら近づいてくる。
 あたしはあわててバケツを持ってまわれ右。
「なにさけてんだよ」
「…別に」
 まさか麦から言われると思わなかったけど、あたしは、麦を、さけてる。
 それは本当で。
「…これ、洗ってよ」
 とんできたモップを受け取ろうとしたらバケツの水がバチャンとこぼれた。
「おまえ、絶対、変だぞ。いつもぎゃーぎゃー怒るくせに」
 言われなくたって!
 自分が変なのはよくわかってるけど。
 きみと話すと、考えないようにしていることが、みんな頭にうずまいちゃいそうで。
 だから、あっち行っててよ! …なんて言えないじゃない。
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