片思いー終わる日はじめる日ー
 お昼休み。
 教室の1番前のあたしの席で、大海ちゃんといっしょにお弁当をひろげていると、前のドアを騒々しく開けて石川が入って来た。
相田(あいだ)ぁ、な一に、まだメシ食ってんの、おまえ。――おっ、タコウィンナ、笑えるぅぅ。――くれ」
 返事も聞かずに、あたしが大事にひとつ残していたソーセージを自分の口に放りこむやつ。
「だれがやるって言った。こら、石川」
 うわーん。貴重なタンパク質が。
「おまえ、最近よく食うなぁ」
「ひとの物を横取りしておいて、そういう失礼なこと言うか、ふつう」
「よしよし。いっぱい食って大きくなれよ。…………横に!」
「い、ひ、は、わっ!」
「きったねぇ。口にもの入れてしゃべるなよ」
「うふふふ」大海ちゃんが小さい、本当に小さいお弁当箱をしまいながら、ころころ笑う。
「相田ちゃんにつられて、このごろわたしも食欲がでてきたのよ」
「そか。よかったね」

 今までは、あたしが1番うしろの大海ちゃんの席まで行って、女子6人全員でにぎやかにお弁当を広げていた。
 でも気づいたら、おしゃべりしながらでも食べられるあたしたちとちがって、おっとりしている大海ちゃんは、会話に加わるとハシが進まないのだ。
 だからいつもお弁当が半分も残ったまま食事会が終わっちゃって。
 大海ちゃんがそれでいいなら、お節介することはないと思っていたけど、あの視聴覚室事件のあとも、黙っていつもどおりにしてくれた1班のみんなは、あたしのだれよりも大切な友だちだから……。
 あたしの席に呼んで、大海ちゃんのペースでご飯が食べられるように、あたしもお弁当に集中するふりをする。
 お弁当の量は増やしてもらったから、そのほうがあたしにも都合がいいしね。
 あたしは――。
 うん。大丈夫。

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