片思いー終わる日はじめる日ー
 畜産試験場と看板のある門の前で、足踏みで息を整えながら腕時計をのぞく。「ここまで10分。往復で20分か。道具をかたすのに10分かかるとして――」
 うーん。
 絵を描けるのは正味1時間半?
 よし、把握した。
 計画が立ったことにホッとして深呼吸していると
「きみもそこの高校の子だな」
 守衛服のおじさんに声をかけられた。
 うわうわ、そうか。サボリじゃないですぅ。
「えと、あの……」
「うん」おじさんがうなずく。
「さっき自転車で来た子に事情は聞いた。嬢ちゃんもがんばんなさいや」
 自転車!?
 うわー。その手があったか!
 よし。
 次は自転車通学の子に話をつけなくちゃだわ。
 えいえい、おう!

「はぁ、はぁ、…っと、この辺、だったと、思ったなぁ…はぁ、はぁ」
 だれもいないから恥ずかしげもなくゼーハー。
 まさか場所探しにまで時間がかかるとは。
 だれもいないから、ここはどこか、お(たず)ねすることもできませんんんん。
「えと……」
 砂利道の行き止まりは細い川にかかる橋で。
 その橋を渡ると(さく)の向こうに牛がいて。
 うんうん。
 ここまでは記憶のとおり。
 なのに……
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