片思いー終わる日はじめる日ー
 クラス名簿プリント片手に、いちいち指さし点検してなにが言いたいのよ。
 つきあってられないわ…と思っていたら、いきなり真面目な顔で、姿勢を正せ!
 なんだ、こいつ。
 その一瞬後、あたしの机のななめ前、教室の前ドアから、
「なんだ相田(あいだ)、どこ見とるんだ。いつまでも中学生気分でぼやぼやしてちゃ困るな」
 と、突然のオヤジ声。担任の河島だ。
「ほら、相田。ちゃんと前をむきなさい!」
 ちょ…。
 なんであたし?
「やーい、怒られてやんの」
 目の前でニタニタ笑っているやつ。
 出席番号3番!
「石川、ね。……おぼえときなさいっ」
 自分だけさっさとイイ子ぶって。なんて調子のいいやつ。


 初めてのホームルームで河島がキーキーしゃべっている間に突然教室に入ってきた中井の姿には、たぶんクラスの全員が息を飲んだと思う。
 極彩色の――たぶん――絵の具がベタベタついた白衣。
「河島先生、教頭がお呼びです」

 代わりに教壇に立った中井が、河島が学年主任も兼任しているので忙しいこと、今日はこのまま自分があとを続けること。そして自己紹介を気だるそうに開始。
 中井リラ、美術科教師。24歳。
 リラは5月に咲く花、ライラックのことだそうだ。
 あたしなんて両親の有子と真実を1文字ずつ取って有・実だから、すっごくロマンティックでうらやましかった。
 年齢を教えてくれたのは出席番号3番の石川が図々しく質問したから。
 女性に年齢をきくなんて本当に失礼なやつ。
 服装についてはだれもツッコめなかったので、本人はまったく気にした様子もなく『チョークの粉がスーツに飛んじゃうからさ。ごめんよ』ですませた。
 そして言葉通り、キコキコとチョークを鳴らして黒板にグラフを書くと、教室がざわついて――…
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