片思いー終わる日はじめる日ー
「ない! ないよ、おじさん! ……どうして? どうしてお米がないの?」
おじさーん!
聞こえるわけないよね。
「…どうしよう」
こんな四角い土の広場じゃ……、
「ぜんっぜん、きれいじゃない」
「ばーか」
えっ?
「ムギが今どきあるわけないじゃないか」
え? えっ?
男の子の声がするのにだれもいない。
「コメとムギの区別もつかないのかよ」
だんだん声が近くなる。
心臓がダクダク弾みだす。
「稲穂が描きたいんだったら、来いよ」
橋の下に頭が見え隠れ。
真っ黒なくせっ毛が風に揺れて――。
「……っ……」
絵の具箱の肩ひもをにぎりしめても心臓の鼓動に身体も揺れた。
声の主、赤根 麦は、ズボンのすそをはたきながら砂利道にあがってきた。
「稲穂、描くんだろ?」
「…うん」
うなずいてうしろに続く。
「ここまではだれも来ないと思ったのにな」
「……うん」
「どうせ、さぼろうと思ってるやつら、多いだろうし」
「…うん」
気のせいでもいい。
今、麦が、あたしに笑いかけてくれたって、あたしは信じる。
「足元、気をつけろよ」
「――うん」
麦があたしに話しかけてくれる声。
変わらない。
変わってない。
ああ……。
風が吹いて。
あたしたちの足元でザワザワと草がおしゃべりをする。
黙ってしまうあたしたちの代わりに。
おじさーん!
聞こえるわけないよね。
「…どうしよう」
こんな四角い土の広場じゃ……、
「ぜんっぜん、きれいじゃない」
「ばーか」
えっ?
「ムギが今どきあるわけないじゃないか」
え? えっ?
男の子の声がするのにだれもいない。
「コメとムギの区別もつかないのかよ」
だんだん声が近くなる。
心臓がダクダク弾みだす。
「稲穂が描きたいんだったら、来いよ」
橋の下に頭が見え隠れ。
真っ黒なくせっ毛が風に揺れて――。
「……っ……」
絵の具箱の肩ひもをにぎりしめても心臓の鼓動に身体も揺れた。
声の主、赤根 麦は、ズボンのすそをはたきながら砂利道にあがってきた。
「稲穂、描くんだろ?」
「…うん」
うなずいてうしろに続く。
「ここまではだれも来ないと思ったのにな」
「……うん」
「どうせ、さぼろうと思ってるやつら、多いだろうし」
「…うん」
気のせいでもいい。
今、麦が、あたしに笑いかけてくれたって、あたしは信じる。
「足元、気をつけろよ」
「――うん」
麦があたしに話しかけてくれる声。
変わらない。
変わってない。
ああ……。
風が吹いて。
あたしたちの足元でザワザワと草がおしゃべりをする。
黙ってしまうあたしたちの代わりに。