片思いー終わる日はじめる日ー
 期末テストの結果は終わる前からわかっていた。
 うしろの席で、(ばく)がたてるシャーペンの音、消しゴムをかける小さな振動。
 脚を組みかえるたび、カタッと鳴る椅子の音。
 麦は絶対、あたしなんか見てないって思っても、休み時間のたびにトイレの鏡の前でブラウスのしわをのばし、抜毛の1本もついていないように背中をはたく。
 何度も何度も、何度も……。
 こんなのが恋なら、あたしはバカだ。


「あーっ、やっと終わったぁ。いよいよ楽しい夏休みだぁ」
 石川が内山くんを追い立てながら、びしょびしょのモップで廊下を走る。
赤根(あかね)は? 美術部は合宿とかしないんですか?」
 ていねいに雑巾をたたみながら伊勢くんが(ばく)に話しかけている。
 自分からはもう話しかけてこない麦を、石川は無神経に、伊勢くんは意図的に、会話に加わらせようとする。
 あたしにわかるくらいだから、麦だって気づいているんだろうに。
 いつまで自分のなかに閉じこもっているつもりなのか。
 それを責める権利がないのは、あたしだけだ。
「参加確認はあったけど――。出してない」
「な、に。どっか、ほかに、旅行でも、するの?」
 内山くんは石川のしかけたモップレースからやっと逃げだして、太った身体をタプタプ揺らしながら麦にモップをバトンタッチ。
「うん」
 それを受け取りながら麦が小さくうなずく。
「それいつ?」石川が麦をめざして廊下をUターンしてきた。
「1回くらいみんなでどっか行こうぜ。いつまで? どこ行くのよ?」
 麦は…だんまり。もうしゃべらない。
 石川ったら。
 空気を読め、ばか。
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