片思いー終わる日はじめる日ー
「ヒマなのはあんただけなの! …ほら、石川。そのびしょびしょのモップ、なんとかしなさいよ」
有実(ゆみ)は、初の公式試合にむけて、遊んでる時間なんかないものね」
 身体の弱い大海ちゃんは、あたしのバレー部入部を本当に喜んでくれて、今やまるでマネージャーのようにあたしのスケジュールを把握している。
「じゃあ、女は大海だけってことで。あっ、うちの班、女は最初から大海ひとりしかいなかったっけ」
「石川っ!」
 あと2日で夏休み。
 去年が受験勉強一色だった1年生は、みんなはしゃいでいる。
 ひとりをのぞいて。

 目のすみにチラッと見えた(ばく)は、ひとり離れてモップをかけていた。
赤根(あかね)くんも、有美も。みんなでどこかに行きたいなぁ」
 大海ちゃんがつぶやく。
「大海ちゃん。身体を大事に。…元気でね」
「うん」
 さみしそうにうなづく大海ちゃんの横で、あたしはなんだかホッとしていた。
 夏休みは、中井にも、麦にも、会わなくてすむ。

 疲れた……。

 受験は終わりじゃなくて、始まりだった。
 高校生活は、想像とは全然ちがった。
 なんだか、すごく、疲れたよ。

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