片思いー終わる日はじめる日ー
 キャプテンが上げる。
 和田先輩が、打つ。
 ブロック。カバー。
 キャプテンが上げる。
 和田先輩がクイック!
 ワン! ツー!
 スリーで放たれた相手チームの強烈なスパイク。
 ボールはブロックに跳んだ和田先輩の指をはじいて。
 スライディングしたあたしの指の30センチ前に落ちた。
 ブロックアウト。

 あたしたちの夏は終わった。



「とにかく、すげーの、相田(あいだ)のやつ。も、血ィだらだら流しちゃって! オレ失神するかと思ったのによ、大海ってば、こんなおとなしい顔して『有実(ゆみ)、がんばって』『有実、しっかり』『きゃー』だもんな。…やっぱ、女はすげぇぜ」
「だって……。有実が、がんばってるのに、目をつぶっちゃったら、申しわけないもの」
 大海ちゃんと石川は試合のあと、すぐ医務室に来てくれた。
 おかげであたしは弱音を吐けなくて。
『傷が残ったら、約束どおりお嫁にもらってよ、先生』って。
 ちょっと、ちゃかしてみたのに。
 石川が『うわ、淫行教師』ってツッコむから医務室は大騒ぎ。
 商高の養護の先生に全員で怒られた。

「しかしそれ、ほとんど汗だったんじゃない? 近藤さんは、そんなにバカじゃないですよ。相田くんに傷を残すようなまねはしないと思います」
「うわー、伊勢くん、するどい」
 実際、切れたっていうより、擦ったってかんじで。
 四角い大きな傷バンを1枚ペたっと貼って、今日も元気に学校に来てるしね。
「はい、有実。英語グラマーね」
 ん。ありがと。
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