片思いー終わる日はじめる日ー
 公式試合が終わったら、すこーしサボッた分の勉強をみんなが助けると約束してくれていたから。
 もっとずっと勝ちあがるつもりでいたあたしには、こんなに早くお勉強会なんて予定外とはいえ、ありがたい。

「んーん、超感動! オレ、こんなに河島の古文理解できたの初めてだぜ、赤根(あかね)
 最初はあたしだけが生徒だったのに、大海ちゃんと石川のノートの横に(ばく)が無言で積んだノートに、いつの間にか大海ちゃんも石川も頭を寄せている。
 うっちゃまんなんて麦の数学のノートを離さない。
「本当に。ノートもこういうふうに整理されていると、とてもわかりやすいわ。赤根くん、字もきれいだし」
「なんだ大海、それ皮肉か」
「え。なんの?」
「……っ……」
 その場にいた全員が吹きだしたのに。
「次、伊勢だよ」
「や、もう打ちました? …はい!」
 ぴしっ!
 笑わない麦にうながされて、伊勢くんがポータブルの将棋盤に駒を打ちおろす。
 将棋部の伊勢くんが置くと、将棋の駒はすっごくいい音がする。
 新学期に入ってから、麦の相手は伊勢くんにおまかせだ。
 やってもやっても勝てない将棋に、麦はすっかりのめりこんでしまったらしい。

 ノートを写す手を止めて、将棋盤にうつむいて唇を噛んでいる麦をぼんやり見つめていたら、だれも気がついていないと思ったのに伊勢くんがあたしを見ていた。
 大丈夫ってうなずく伊勢くん。
 そう…だね。
 麦はもう大丈夫。
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