翠玉の監察医 真実を知るか偽りに溺れるか

三 愛せない

「ご遺体の搬送、終わりました」

そう言い、警察官が解剖室の台の上にご遺体を置く。遺体は小柄な日本人の少女だった。生前は食が細かったのか同年代の女の子と比べるとかなり痩せている。

「この方の名前は鮎川（あゆかわ）ミカさん。××中学校に通っています。今朝、ベッドの上で亡くなっているのを母親である鳴子（めいこ）さんが発見しました」

警察がそう言い、蘭や他の監察医たちはミカの体の様子を観察する。痩せた体にはアザや傷が多く見られた。

「ずいぶん傷がありますね。ひょっとして虐待……？」

圭介がそう言い、蘭を見つめる。蘭は「まだ虐待と決まったわけではありません」と冷静に返し、遺体の状況の観察を続ける。

「この子、まつエクをつけたばかりなんだ」

フランス人監察医のジャンヌ・ボヌフォワがミカの目元を見て言う。それに対し、オーストラリア人監察医のマイケル・オーが「まつエク？」と首を傾げ、ジャンヌは呆れたように口を開く。