翠玉の監察医 真実を知るか偽りに溺れるか
「鮎川鳴子さんでしょうか?」

蘭が訊ねると、「そうよ」と言いながら鳴子はコーヒーを口にする。その動作は、まるでカフェで仕事の打ち合わせをする時のようだ。圭介は「何だこの人」と言いたげな目をする。しかし、蘭は表情を変えることなく頭を下げた。

「お初にお目にかかります。監察医の神楽蘭です。必ず死因を究明致します」

「あの、自己紹介をただしたいだけなら私はもう帰っていいですか?私、仕事だってありますし」

足を組みながら言う鳴子に対し、「あなた、本気で言ってるんですか!?自分の子どもが亡くなったんですよ!!」と圭介が抑えきれなかったのか怒りを見せる。しかし、圭介に怒鳴られても鳴子は表情を変えなかった。

「だから何?私はあの子を愛せないの。あの子のせいで人生を狂わされた。だから私はあの子が嫌い」

そう言う鳴子の体からふわりとラベンダーの香りが漂ってくる。彼女が付けている香水の匂いだろう。蘭は少し表情を和らげ、言った。
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