すてきな天使のいる夜に
自分に背を向けた沙奈の腕を咄嗟に掴もうとしたけど、自分のこの行動で余計に気持ちが不安定になってしまうのではないか。
そう考えたら、彼女を呼び止めることができなかった。
彼女は静かに診察室をあとにした。
「すみません…。
沙奈の代わりに、俺が話を聞きます。」
「ありがとう。
翔太や紫苑が、一緒に住んでるからいざという時には大丈夫だとは思うけど、何かあったらすぐに俺に伝えて。
それから、沙奈ちゃんの主治医は俺になるけどいいかな?」
「はい。大翔先輩なら沙奈のこと安心して任せられます。」
「それから、次の再診の日は来週の今日でもいいかな?」
「学校終わってからになってしまうと思うので、18時頃とかでも大丈夫でしょうか?」
「最後の診察枠だね。
平日だからこれからもそうしようか。
沙奈ちゃんが辛いようであればいつでも変更大丈夫だから。」
「ありがとうございます。
大翔先輩。
沙奈を、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。よろしく。」
それにしても、沙奈ちゃんは想像以上の反応だったな。
何も、聞きたくない。受け止めたくない。
彼女からはそんな感情が伺えた。
確かに、何もなく健康に過ごしてきたあの子にとって辛い診断だったかもしれない。
健康?
いや、違う。
あの子はきっと何かあったはず。
大きな瞳からは、どこか人を信用していない感じもした。
それに、体重も身長も16歳にしては同じ歳の子から比べて1回りも小さい。
あの子を守って支えていきたい。
はぁ…。
結局、あの子が心配でその後の診察にあまり集中できなかった。
翔太と無事に家に帰れただろうか。
そればかりが心配だった。
だけど、2人が傍にいてくれるなら何も心配はいらないのだろうけど。
悔しいけど、沙奈ちゃんを分かってるのは紫苑と翔太だもんな。
他人である自分が、沙奈ちゃんの心の中に入り込むのは、沙奈ちゃんが許してくれない限りできない気がしていた。
それに…
無理に心の内を知ろうとしても、沙奈ちゃんが怖がるだけだよな。
警戒心を余計に強めてしまう。
仕事が終わったら、1回翔太に連絡してみるか。
早く仕事を切り上げられるように、淡々と仕事を進めていた。