すてきな天使のいる夜に
ーside 沙奈ー
何も知らない方が良かったのかもしれない。
何も知らない方がいいことだってある。
昔、お母さんがよく口にしていた言葉だと聞いたことがあった。
その意味、今ならすごいわかる。
母も心疾患があった。
元々、身体も弱くて命懸けで私を産んでくれた。
臨月を迎える前に、私は薬で陣痛を誘発されて、低出生体重児として産まれてきた。
母のお腹の中いる時間が長ければ長いほど、母親に負担がかかり命を落とす可能性があると言われたそうだ。
母親の命を優先するか、私の命を優先するかの選択肢を父親に話したらしい。
それでも、母親は私の命を優先して欲しい。
父も母親の意志を尊重してくれたそうだ。
なのに…。
私は、小さい体であったとしても無事に産まれることができた。
それと引き換えに、母親は命を引き取った。
私が生まれてから1度も父親から優しい眼差しを向けられることなんてなかった。
赤ちゃんから、3歳頃までは私は施設にいた。
父親の強い意思と、心機一転を見せたばかりに私は不幸な人生の入口へと立たされ歩まされてしまった。
何度も、人殺しって罵られたんだっけ。
だけど…。
父親が私の命を優先しなかったら、私は今頃ここにはいなかったのかもしれない。
父親も、私の命を優先したばかりに、母親の命を失ってしまったという罪悪感がどこかにあるから私に当たることで気持ちを分散させていたのだろう。
人はみんな弱いから、そうやって誰かのせいにしないとやっていけなかったのだろう。
それなら…。
私の命を優先しなくてもよかった。
どうせ私を捨てるのなら、私の命を選ばなければよかっただけの話。
病気になるくらいなら。
どうして、今こんな病気が見つかるの?
もっともっと前に、見つかればよかったのに。
死んでもいいと思っていたあの頃に…。
「本当…。全部勝手だよ…。」
そんなことを考えていると、後ろから優しく誰かに抱きしめられた。
後ろを振り向くと、涙目になっている翔太が私に優しい笑みを向けていた。
「沙奈。心配したよ。
寒かっただろう。
お家に帰ってゆっくり話をしよう。」
「翔太…。」
後ろから翔太の温もりを感じて、私は感情のままに涙を流していた。
悪いことばかり考えていたから、今は翔太の腕で思いっきり泣きたい。
あまり、無理をすると翔太や紫苑が心配する。
我慢はしなくていいと言ってくれる。
だから、今は思いっきり泣いてもいいよね。
悪いことばかり考えていたけど、あの日2人が私を見つけて救ってくれた。
その日から私は、いつも優しい陽だまりの中にいることを思い出した。
「ごめんね、翔太。
また私、心配かけて…。」
「いいんだ。謝らないで。
そう簡単に病気を受け止められない気持ちも、逃げ出したくなる気持ちも分かるから。
沙奈、泣きたい時には思いっきり泣いていいから。」
しばらく翔太は、何も言わずに私の表情を見ることは無く、後ろから優しく抱きしめてくれていた。
後ろから感じる翔太の温もりが、あまりにも優しくて涙が余計に止まらなかった。
片方の手で、私の頭を撫でてくれる。
死にたくない…。
2人とこれからも、一緒に生きていたいのに。
「翔……太…。」
「沙奈…。大丈夫。
沙奈には、俺もいるし紫苑もついている。
それに、今日沙奈の診察をしてくれた大翔先輩も凄く腕のいい医者だから。
何も心配いらないよ。絶対、沙奈を死なせたりしないから。
俺も、紫苑も沙奈のこと守るからな。」
「うん…。私も…治療頑張るから。
紫苑と翔太と……
これからも生きていたいから…。」
途切れ途切れになる呼吸の中、私はそう言葉にした。
「うん。一緒に頑張ろう。
沙奈…。
ありがとう。」
翔太は、私が落ち着くまで抱きしめてくれていた。
「沙奈、ちょっと落ち着いたか?」
「うん。ごめんね。翔太。寒かったよね。」
いくら4月とはいえ、夜の浜辺は冷えるよね。
「沙奈のこと、抱きしめていたから温かかったよ。
帰ろうか、沙奈。」
翔太は、私を抱きあげ車に乗せてくれた。
そこから、私は眠っていたのか気づいたら部屋のベッドに横になっていた。
何も知らない方が良かったのかもしれない。
何も知らない方がいいことだってある。
昔、お母さんがよく口にしていた言葉だと聞いたことがあった。
その意味、今ならすごいわかる。
母も心疾患があった。
元々、身体も弱くて命懸けで私を産んでくれた。
臨月を迎える前に、私は薬で陣痛を誘発されて、低出生体重児として産まれてきた。
母のお腹の中いる時間が長ければ長いほど、母親に負担がかかり命を落とす可能性があると言われたそうだ。
母親の命を優先するか、私の命を優先するかの選択肢を父親に話したらしい。
それでも、母親は私の命を優先して欲しい。
父も母親の意志を尊重してくれたそうだ。
なのに…。
私は、小さい体であったとしても無事に産まれることができた。
それと引き換えに、母親は命を引き取った。
私が生まれてから1度も父親から優しい眼差しを向けられることなんてなかった。
赤ちゃんから、3歳頃までは私は施設にいた。
父親の強い意思と、心機一転を見せたばかりに私は不幸な人生の入口へと立たされ歩まされてしまった。
何度も、人殺しって罵られたんだっけ。
だけど…。
父親が私の命を優先しなかったら、私は今頃ここにはいなかったのかもしれない。
父親も、私の命を優先したばかりに、母親の命を失ってしまったという罪悪感がどこかにあるから私に当たることで気持ちを分散させていたのだろう。
人はみんな弱いから、そうやって誰かのせいにしないとやっていけなかったのだろう。
それなら…。
私の命を優先しなくてもよかった。
どうせ私を捨てるのなら、私の命を選ばなければよかっただけの話。
病気になるくらいなら。
どうして、今こんな病気が見つかるの?
もっともっと前に、見つかればよかったのに。
死んでもいいと思っていたあの頃に…。
「本当…。全部勝手だよ…。」
そんなことを考えていると、後ろから優しく誰かに抱きしめられた。
後ろを振り向くと、涙目になっている翔太が私に優しい笑みを向けていた。
「沙奈。心配したよ。
寒かっただろう。
お家に帰ってゆっくり話をしよう。」
「翔太…。」
後ろから翔太の温もりを感じて、私は感情のままに涙を流していた。
悪いことばかり考えていたから、今は翔太の腕で思いっきり泣きたい。
あまり、無理をすると翔太や紫苑が心配する。
我慢はしなくていいと言ってくれる。
だから、今は思いっきり泣いてもいいよね。
悪いことばかり考えていたけど、あの日2人が私を見つけて救ってくれた。
その日から私は、いつも優しい陽だまりの中にいることを思い出した。
「ごめんね、翔太。
また私、心配かけて…。」
「いいんだ。謝らないで。
そう簡単に病気を受け止められない気持ちも、逃げ出したくなる気持ちも分かるから。
沙奈、泣きたい時には思いっきり泣いていいから。」
しばらく翔太は、何も言わずに私の表情を見ることは無く、後ろから優しく抱きしめてくれていた。
後ろから感じる翔太の温もりが、あまりにも優しくて涙が余計に止まらなかった。
片方の手で、私の頭を撫でてくれる。
死にたくない…。
2人とこれからも、一緒に生きていたいのに。
「翔……太…。」
「沙奈…。大丈夫。
沙奈には、俺もいるし紫苑もついている。
それに、今日沙奈の診察をしてくれた大翔先輩も凄く腕のいい医者だから。
何も心配いらないよ。絶対、沙奈を死なせたりしないから。
俺も、紫苑も沙奈のこと守るからな。」
「うん…。私も…治療頑張るから。
紫苑と翔太と……
これからも生きていたいから…。」
途切れ途切れになる呼吸の中、私はそう言葉にした。
「うん。一緒に頑張ろう。
沙奈…。
ありがとう。」
翔太は、私が落ち着くまで抱きしめてくれていた。
「沙奈、ちょっと落ち着いたか?」
「うん。ごめんね。翔太。寒かったよね。」
いくら4月とはいえ、夜の浜辺は冷えるよね。
「沙奈のこと、抱きしめていたから温かかったよ。
帰ろうか、沙奈。」
翔太は、私を抱きあげ車に乗せてくれた。
そこから、私は眠っていたのか気づいたら部屋のベッドに横になっていた。