すてきな天使のいる夜に
ーside 大翔ー



翔太から沙奈が無事だという連絡が入り心の底からほっとした。




沙奈がいなくなったと聞いて、本当に生きた心地がしなかった。




「大翔先輩。今日は本当にありがとうございました。」




翔太は、沙奈ちゃんを部屋へ寝かせてから温かいお茶を入れてくれた。




「ありがとう。」




「沙奈、本当はもっと前から体調が良くなかったんです。


高校の健康診断の前からおそらく、自覚症状があったと思います。



沙奈の異変には、俺も紫苑も気づいていました。



だけど、沙奈は俺達に迷惑をかけないようにと、症状や気持ちをいつも隠してしまうんです。


もっと、沙奈の気持ちと向き合うべきでした。」



血の繋がりはないとはいえ、沙奈と紫苑、翔太は家族だからもっと頼ってもいいと思う。




沙奈に何があったのか分からないけど、紫苑や翔太は中途半端な気持ちで沙奈を引き取ることはしない。



責任感が強くて、その分全部自分で背負ってしまう紫苑や、いつも明るく優しく、人一倍誰かのために動くことができる翔太。



そんな2人だから、沙奈ちゃんのことに対しては中途半端な気持ちで引き取るような無責任なことはするわけがない。




沙奈がどれだけ家族との時間を過ごして来たのかは分からないけど、もう少し2人を頼ることができれば気持ちも楽になるんだろうな。




きっと、自分の気持ちを声に出すことも苦痛なんだろうと思う。





昔、心療内科として働いていたから彼女の瞳から影があるような子っていうことは最初の診察の時から分かっていた。





2人の妹だと知った時は、本当に驚きだった。




彼女を見ていると、不思議な感情になる。




辛い表情を見ていると、自分の胸も締め付けられるぐらい苦しくなる。




生きづらさを感じているのであれば、この手で救いたい。




彼女をこれからも守っていきたい。




抱えきれないほどの大きな悲しみや苦しみがまだ残っているのであれば、俺が一緒に背負って行きたい。



彼女が、俺に心を開いてくれるまではかなり時間がかかりそうだけど、諦めたくなかった。





「翔太、今日紫苑は?」




「今日は、普通の外来なのでそろそろ帰ると思います。」



時刻は20時をしめしていた。




「そうか。


翔太、今日のことは紫苑に話せるか?」




「はい。話さなければいけないと思うので。



本当は沙奈。紫苑と俺が揃った時に話そうと考えていたみたいなんです。



でも、紫苑は夜勤で何時に帰れるか分からないし、沙奈の顔色や状態を見る限りそこまで待ってはいられないと思ってすぐに受診をさせました。」



そんなやり取りをしていると、ドアを開ける音が聞こえた。
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