すてきな天使のいる夜に
ーside 大翔ー



外来の診察の準備をしていると、プライベートで使っているスマートフォンの画面が光った。



「紫苑、休みか。」



紫苑から、沙奈ちゃんの状態が少し悪化して目を離せない状況だから外来の診察サポートができないとの連絡だった。




帰りにお見舞いに行きたいな。




だけど、自分がお見舞いに行くことで沙奈ちゃんを余計に困惑させてしまうよな。




主治医という建前でいってみるか?



いや、病院ではそうだとしても外に出たら俺は他人だよな…。




お見舞いなんて、たとえ主治医であっても許されない。



彼女の心の扉は、想像以上に頑丈な気がして紫苑や翔太でも開けることが難しいと感じているのかもしれないな。




前に、紫苑もそう話していたよな。




1番身近にいる2人でさえ、沙奈ちゃんの心の扉を開くことに苦戦してると感じてからは、心に入り込むというよりも、彼女の心に少しでも寄り添うことができるように支えていきたい。



彼女の診察をして、戸惑う様子やどこか人を信用していない瞳を見て守っていきたいと感じる。




「少しでも、沙奈ちゃんの力になりたいな。」





「沙奈ちゃんって、この間逃げた女の子ですか?」





1人事のように呟いたはずが、近くにいた看護師の冨山さんに話を聞かれていた。




「彼女は逃げてない。」




「すみません。逃げたとは言い過ぎました。



診断を聞いて、完全に受け止められる人間なんていません。


それが、過酷のものであればあるほど現実逃避が酷くなる。


彼女は、もっと辛い思いをしてきたのでしょうね。


その上、病気が見つかってもっと自分に生きる意味を失ってしまったのかもしれないです。」





全てを知っているかのように、富山さんはペラペラと話し始めた。




普段は、無口で寡黙という言葉が似合うような人なのに。




「ずいぶん、富山さんは七瀬さんのことに詳しいですね。」




「自分も、心療内科の看護師だったので。」




本当にそれだけなのか?



そう言って寂しそうに俯く富山さん。



何となく沙奈ちゃんのことを知っているような気がした。



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