すてきな天使のいる夜に
ーside 大翔ー
冨山さんは、何事もなかったかのように淡々と仕事を進めてくれた。
さっきとは、別人のように無口な冨山さん。
沙奈のことを知っているなら、詳しく話を聞きたい。
沙奈を1番理解しているのであれば、沙奈と心を繋ぐヒントがほしい。
「冨山さん。」
外来の診察がひと段落して、お昼ご飯を食べに行こうとしている冨山さんを急いで呼び止めた。
「はい。」
「その、よかったら一緒にご飯でもどう?」
「…。」
相変わらず、何を考えているのか分からない。
この顔は、一体どんな時に見せる表情なんだ?
この人は、無の感情でこちらに目を向けてくるから、感情を読み取ることが誰よりも難しい。
「沙奈ちゃんのことなら、話す気なんてありません。」
思っていることを悟られ、思わず動揺してしまった。
「失礼します。」
再び呼び止めることができず、冨山さんはそう言って俺に頭を下げ昼食を取りに行ってしまった。
それから、冨山さんとは一緒にご飯を食べることはなく、1日が過ぎてしまっていた。
「大翔先輩。」
外来の診察が終わり、カルテの整理や看護師へ指示を出し終わった頃、翔太に話しかけられた。
「翔太。お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
「あれから、沙奈ちゃんの具体はどう?
紫苑から、あまり良くないって聞いたけど…。」
翔太は、俺の質問に険しい表情をしていた。
「沙奈の発作は、1回1回が重いのかもしれません。
朝方に発作を起こして、呼吸状態が一気に落ちてしまい今は酸素5Lを投与しています。
喘鳴も出ていたので、また悪化する可能性が高く、今の状態で発作が出たら…。
そう考えるだけで怖いです。」
「翔太…。」
今の発作が中等度であれば、重度の発作になりかねない。
そうなったら、人工呼吸器を付けることになる。
話すことも出来なくなれば、ご飯だって食べられなくなる。
何より、彼女自身に大きな負担をかけてしまう。
痛い思いや苦しい思いをさせてしまう。
「俺は沙奈の兄だから、本当はしっかりしないといけないんですが。
情けないことに、何も出来ない自分が悔しいです。
発作が出て、吸入をしながら苦しむ沙奈の傍にいてあげることしか出来ない。
大切な妹のことなのに…。」
「1人で不安でいるよりも、誰かが傍にいてくれるだけで十分だと思うよ。
それに、きっと言葉にしていないんだろうけど沙奈ちゃんはそれだけで幸せだと思う。
何があったのかは分からないけど、悲しい瞳を持ちながらも、翔太に向ける沙奈ちゃんの視線は信頼のある眼差しに見える。
瞳は心の中を写す鏡というけど、本当にそうかもしれない。
それに、翔太。
自分の不甲斐なさや情けなさに落ち込んでいても仕方ないんだ。
落ち込んでいても、時間は止まってくれないしな。
今できることを精一杯やろう。
不安を隠してまで、無理にしっかりしようとしなくていい。
少なくとも、俺や紫苑の前で無理はするな。
その不安な感情が、自分も相手も傷つけてしまう。
沙奈ちゃんのことは、俺も一緒に支えていく。
だから、翔太も沙奈ちゃんを支える1人として一緒に頑張ろうな。」
翔太が、1人で背負うことなんてない。
辛い時は、無理せずに笑わなくてもいい。
そうやって、不安なことは表に出して抱え込まないでほしい。
誰でも、大切な人が病気で苦しむ姿を見るとたまらなく不安になる。
目に見えない病気の悪化にも、1回1回の発作にも沙奈ちゃんはもっと不安な思いをすると思う。
そんな時、1番に支えられるのは俺ではない。
紫苑や翔太しかいない。
俺も主治医として治療に専念することは前提に、2人が倒れてしまわないようにまずは翔太と紫苑の相談相手になろう。
その後に、俺もいつか沙奈を支えられる存在になれるように関わっていこう。
「ありがとうございます。
紫苑と一緒に沙奈のことをみていきます。
沙奈の支えになれるように、注意深く症状の観察をしていきます。
何かあった時には、お世話になるかもしれませんがその時はよろしくお願いします。」
「任せて。
ありがとう。翔太。」
明るくクシャッと笑う翔太が、後輩としてあまりにも可愛く見えた。
深刻な表情をしていたからな…。
俺に話したことで、心が少しでも楽になったのであればそれでいい。
冨山さんは、何事もなかったかのように淡々と仕事を進めてくれた。
さっきとは、別人のように無口な冨山さん。
沙奈のことを知っているなら、詳しく話を聞きたい。
沙奈を1番理解しているのであれば、沙奈と心を繋ぐヒントがほしい。
「冨山さん。」
外来の診察がひと段落して、お昼ご飯を食べに行こうとしている冨山さんを急いで呼び止めた。
「はい。」
「その、よかったら一緒にご飯でもどう?」
「…。」
相変わらず、何を考えているのか分からない。
この顔は、一体どんな時に見せる表情なんだ?
この人は、無の感情でこちらに目を向けてくるから、感情を読み取ることが誰よりも難しい。
「沙奈ちゃんのことなら、話す気なんてありません。」
思っていることを悟られ、思わず動揺してしまった。
「失礼します。」
再び呼び止めることができず、冨山さんはそう言って俺に頭を下げ昼食を取りに行ってしまった。
それから、冨山さんとは一緒にご飯を食べることはなく、1日が過ぎてしまっていた。
「大翔先輩。」
外来の診察が終わり、カルテの整理や看護師へ指示を出し終わった頃、翔太に話しかけられた。
「翔太。お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
「あれから、沙奈ちゃんの具体はどう?
紫苑から、あまり良くないって聞いたけど…。」
翔太は、俺の質問に険しい表情をしていた。
「沙奈の発作は、1回1回が重いのかもしれません。
朝方に発作を起こして、呼吸状態が一気に落ちてしまい今は酸素5Lを投与しています。
喘鳴も出ていたので、また悪化する可能性が高く、今の状態で発作が出たら…。
そう考えるだけで怖いです。」
「翔太…。」
今の発作が中等度であれば、重度の発作になりかねない。
そうなったら、人工呼吸器を付けることになる。
話すことも出来なくなれば、ご飯だって食べられなくなる。
何より、彼女自身に大きな負担をかけてしまう。
痛い思いや苦しい思いをさせてしまう。
「俺は沙奈の兄だから、本当はしっかりしないといけないんですが。
情けないことに、何も出来ない自分が悔しいです。
発作が出て、吸入をしながら苦しむ沙奈の傍にいてあげることしか出来ない。
大切な妹のことなのに…。」
「1人で不安でいるよりも、誰かが傍にいてくれるだけで十分だと思うよ。
それに、きっと言葉にしていないんだろうけど沙奈ちゃんはそれだけで幸せだと思う。
何があったのかは分からないけど、悲しい瞳を持ちながらも、翔太に向ける沙奈ちゃんの視線は信頼のある眼差しに見える。
瞳は心の中を写す鏡というけど、本当にそうかもしれない。
それに、翔太。
自分の不甲斐なさや情けなさに落ち込んでいても仕方ないんだ。
落ち込んでいても、時間は止まってくれないしな。
今できることを精一杯やろう。
不安を隠してまで、無理にしっかりしようとしなくていい。
少なくとも、俺や紫苑の前で無理はするな。
その不安な感情が、自分も相手も傷つけてしまう。
沙奈ちゃんのことは、俺も一緒に支えていく。
だから、翔太も沙奈ちゃんを支える1人として一緒に頑張ろうな。」
翔太が、1人で背負うことなんてない。
辛い時は、無理せずに笑わなくてもいい。
そうやって、不安なことは表に出して抱え込まないでほしい。
誰でも、大切な人が病気で苦しむ姿を見るとたまらなく不安になる。
目に見えない病気の悪化にも、1回1回の発作にも沙奈ちゃんはもっと不安な思いをすると思う。
そんな時、1番に支えられるのは俺ではない。
紫苑や翔太しかいない。
俺も主治医として治療に専念することは前提に、2人が倒れてしまわないようにまずは翔太と紫苑の相談相手になろう。
その後に、俺もいつか沙奈を支えられる存在になれるように関わっていこう。
「ありがとうございます。
紫苑と一緒に沙奈のことをみていきます。
沙奈の支えになれるように、注意深く症状の観察をしていきます。
何かあった時には、お世話になるかもしれませんがその時はよろしくお願いします。」
「任せて。
ありがとう。翔太。」
明るくクシャッと笑う翔太が、後輩としてあまりにも可愛く見えた。
深刻な表情をしていたからな…。
俺に話したことで、心が少しでも楽になったのであればそれでいい。