すてきな天使のいる夜に
「沙奈!
本当に沙奈だよね!」
学校へ向かう途中、音羽が私に声をかけてくれた。
病気のことでいっぱいいっぱいになってたけど、そういえば音羽には何も話せていなかった。
何回か、メールも送ってくれたのに返すことが出来ていなかった。
「心配したんだから。沙奈。」
涙を流しながら、音羽は私を抱きしめた。
「ごめん。音羽。
心配かけちゃってごめんね。
音羽、音羽にはちゃんと話さないとね。」
1番の親友である音羽に、これからも迷惑をかけてしまうかもしれない。
1人で、喘息の発作に対応できるようにはまだなっていない。
紫苑から、言われた。
学校に着いたら、担任と保健室の先生に診断書を渡すこと。
それから、授業中に喉が乾燥したりすることで発作が誘発されるからその時は水分を取ってもいいように先生に伝えること。
「沙奈、沙奈の話したいタイミングでいいよ。
私、いつでも話聞くからね。」
「うん。ありがとう。」
それから、私達は一緒に学校まで登校した。
紫苑に言われた通り、診断書も保健室と担任の先生へ渡した。
保健室の佐々木先生からは「必ず無理はせず、辛い時は保健室に来てください。」と言われた。
佐々木先生の声を聞くと、不思議なことに自分の心を先生に預けることができて安心できた。
翔太と幼なじみだからかな?
それからは、喘息の発作を引き起こすことなく1日があっという間に過ぎていった。
「沙奈、一緒に帰ろう。」
初めて病院へ行った日のように、音羽に声をかけられた。
「音羽、話があるの…。」
誰もいない静まり返った教室に、2人の間で一気に緊張感が高まった。
「うん。ゆっくりでいいから話して。」
私と隣合うように、音羽は隣の子の椅子を私の方へ持ってきて腰を下ろした。
「実はね、音羽。
4月に健康診断やったの覚えてる?」
「入学式の前、たしか3月頃だよね。覚えてるよ。」
「それで、私病気が見つかったの…。」
「えっ?」
音羽の瞳を見ると、大きな瞳から今にも涙がこぼれ落ちそうで、涙を出さないようにと我慢していることが分かった。
「詳しく検査してもらったら、喘息と洞不全症候群っていう病院が見つかったんだ…。
1週間、それが原因で体調もよくなくて学校も休んでた。
これから、音羽やクラスのみんなにも迷惑かけちゃうかもしれない…。」
そう…。
診断がついても、私の覚悟は決められていなくて自分でもまだ信じ難い。
病気なんて信じたくもない…。
「沙奈…。
私、沙奈の力になれるか分からないけど、何があっても私は沙奈のことずっと傍で支えていく。
沙奈、辛いのに話してくれてありがとう。
1人で、抱え込まないでね。」
「音羽…。」
「沙奈と出会った頃から、私も瑛人もずっと沙奈のこと心配してた。
沙奈は昔から辛い記憶も過去も自分だけで背負って生きてきたの知ってるから。
その重荷に耐えきれなくなって、いつか沙奈が押しつぶされてしまうんじゃないかって不安だったの。
だから、私達の前では我慢しないで体調悪かったり、心がどうしようも無くなったりしたらすぐ話してよ。」
音羽の優しい言葉に涙が溢れ出て、視界がぼんやりとしていた。
しばらくは、音羽に抱きしめられていた。