すてきな天使のいる夜に
♯4 愛情
ーside 大翔ー


いけないこととは分かっていた。



だけど、我慢できず自分の心にブレーキをかけることが出来ず、沙奈の身体を抱きしめていた。



あまりにも、悲しい瞳をしていたから。



でも、それだけで俺の心はあんなに動揺はしない。



悲しい瞳をもつ人はたくさん見てきたから。



そんな人達の診察をしても、こんな感情的にはならなかった。



患者さんの、人生まで引き受けていたら医者は潰れてしまうから。



患者さんへ、必要以上に関わってトラブルになるのは嫌だった。




それ以上に、患者さんのことはどこか他人事のように捉えていた。



病院の外では全く関係の無い赤の他人だ。



でも、沙奈のことはどうしてもそう思えなかった。



最初の診察の時から、どうしても冷静でいられなかった。




自分の命を懸けても彼女を守り抜きたいという感情が日に日に大きくなっていった。





1人の女性として、沙奈を見ている自分がいる。



大きくなるこの気持ちを、どうしても抑えることができなかった。



気づいたら、俺は沙奈のことを好きになっていた。



愛おしい人になっていた。




どうしても、彼女のことを知りたくて気づいたら沙奈を抱きしめていた。




自分でした事とはいえ、今の状況に頭が追いついていかなかった。



沙奈から、背中に手を回し強く抱きしめられていた。



それだけで、心臓が口から出そうなほど、早くうるさくなるこの鼓動。



「どうして、そんなに優しくしてくれるの?」



そう、涙で震える声で沙奈は話した。



君を一生かけて守りたいから。



本当は、そう言いたかった。



でも、今そんなことを言ったら彼女が困惑してしまう。



この状況でさえも、彼女はきっと困惑していると思うけど。



「沙奈のこと救いたいんだ。


俺は、沙奈の病気を治すためにできることは何でもする。


命を助けるために、医者は患者の病気を根気強く治療をしていく。



だけど、それだけにしたくないんだ。


沙奈を悲しみから救い守りたいと思うんだ。


沙奈の背負ってる物を、一緒に背負っていきたい。



半分、俺に分けてくれないか?」




医者と患者であることは分かっている。



それ以上の関係を持ってはいけないことも分かってる。



だけど、どうしてもこの温もりを離したくなかった。



この温もりが、紫苑や翔太以外の誰かに触らせたくなかった。



自分一人のものにしたかった。



沙奈は、それから何も言わなくなった。



ただ、沙奈は涙を流すだけだった。



でも、その涙はきっと今までの辛い過去からの物だと分かった。



もし、今まで泣くことが出来ずに我慢していたなら、今は思いっきり泣かせてあげたい。



だけど、俺の腕の中で以外は泣かせたくないな。



沙奈が、個室で本当によかった。



この時間は、看護師達も交代で休憩に入るから人も少ない。



人も少ないから、看護師達も忙しそうにしていた。




しばらく、沙奈の背中を撫でていると規則正しい呼吸で眠る沙奈がいた。



「疲れたんだな…。」



涙を、手で拭い沙奈をベッドへ寝かせた。



泣いた後でもこんなに可愛いなんて有り得るのか?



ハマってんな、俺。



それからしばらく、頭をあやす様に撫でていた。

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