すてきな天使のいる夜に
♯5 過去
あれ…。
ここは…。
私の…家?
あれは、小さかった頃の私とお父さん。
私は、夢を見ていた。
きっと今見てるのは、私が11歳の時の記憶だろうか。
まだ幼い私は、父親の視界に入らないようにと小さく体を丸めて、隅に座り込んでいた。
「お前こっちに出てこいよ!」
そう言いながら、私の髪をつかみ自分の元へと引きずり込まれる。
「痛い…!」
「うるせーな!
俺の許可なしに喋ってるんじゃねーよ!」
そう言って、父は私の頬を拳で強く殴る。
それから、お腹を何回も蹴られガラス貼りの扉の方へ飛ばされていた。
心の中で痛い、助けてと何度も叫んでいた。
「今日はお前の命日だ。
お前が生まれた2月18日だ。
この日に人生の最期を迎えられて俺に感謝しろよな!
お前は…何のために生まれてきたんだろうな!」
そう言われ、不気味な笑みを向けられながら、何度も何度も殴られ蹴られていた。
内蔵が破裂しそうなくらい蹴られ、肋骨と足の骨が折れていた。
ご飯も、5日間食べさせてもらえなかった。
食事を取らせないために、食品も全て家にはなかった。
きっと、あの人は本気で私を殺すつもりだったのだろう。
それに、学校にも行かせてもらえなかった。
体中に傷があることを学校にバレてしまうと余計にまずかったから。
それに、学校ではちゃんと栄養管理のされた給食が出るから、栄養をそこで補ってしまうと、私が生き延びてしまうから。
ご飯が食べられない日が続くことなんていつもの事で、父親の目を盗み、家の外に咲いていた草花を口にし、公園で水道水を飲みながら空腹に耐えた。
父から暴力を受けていた時にはいつも気を失いそうだった。
何度も何度も殴られ、蹴られ半分意識が途切れ途切れになり、気づいたら父親に抱えられあのゴミ捨て場へ捨てられた。
何も辛くなかった。
寂しくもなかった。
悲しくもなかった。
どうでもよかった。
どこかで、こうなることは予感していたから。
それに、自分は産まれた時から幸せになることを諦めていたのかもしれない。
私を、命懸けで産んでくれた母がいたからこの命は父親から守り抜かないといけないと思っていたけど。
そう自分に言い聞かせることも
生きていても、何もいいことなんてなくて。
もういっその事、母親のいる天国に行った方が私は楽になれるのかもしれない。
あの頃の私は、そう考えていたのかもしれない。