すてきな天使のいる夜に
ーside 紫苑ー


小さな子供のように泣く沙奈の姿を初めて見た。



辛いことがあっても、今まで泣くことが出来なかったのだろう。



今まで、心の中へ押し込めてきた感情が爆発したかのようにも思えた。



そんな沙奈に対して、今にも壊れそうな小さな背中を抱きしめることしかできなかった。



あの日の出来事のことは、詳しく俺も翔太も知らない。


だから、沙奈自身から聞かないといけない。



でも、過酷すぎるよな。



沙奈の今の様子を見たら、きっと何度もフラッシュバックするに違いない。



何が引き金となって、沙奈に過去の夢を見させたのか分からないけど、これから今まで以上に沙奈を1人にしたくなかった。



1人にしたらいけない。



本能が働くとはこういうことなのだろうか。




そう考えてしまうほど、今は沙奈から目が離せない。



まだ、沙奈の足や腕には深い傷の跡がある。



心はもっと、深く傷つけられてその傷だってまだ残ってる。



心の傷を癒やすことは、体の傷が治るようにはいかない。



俺達がどんなに愛情をもって、沙奈に接しても沙奈が心を完全に開いてくれるとは限らない。



彼女の心の扉は、彼女自身で開けないことには、沙奈はきっと後ろを向いたままになってしまう。



でもな、沙奈。



後ろばかりを向いていてはダメなんだ。



どんなに辛くても、悲しくても、苦しくても前を向いて生きていかないといけないんだ。



明日も、明後日もこれからもずっと過去を背負って生きていかないといけないから。



だけど、1人で背負わせたくはないんだ。



これからの沙奈の人生に、俺達も一緒に寄り添って歩んでいく。



沙奈の、1番身近な存在だから1番沙奈のこと分かっていたいんだ。




いつか、沙奈が本当の笑顔を見せてくれる日をずっと夢見て待っている。




沙奈。



もう1人で苦しまなくていいからな。



この手は絶対に離してたまるか。



俺は、沙奈の心が答えてくれるまで永遠と待ち続けるよ。



膝の上でぐったり眠る沙奈に毛布をかけ、俺はソファーの背もたれに寄りかかり、沙奈を抱きしめたまま眠りに着いた。
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