すてきな天使のいる夜に
ーside 沙奈ー
目を覚ますと、私はベッドの上にいた。
窓の外を見てみると、太陽はもう1番高いところに昇っていた。
「沙奈、起きたか?」
携帯で時間を確認すると、そう紫苑からメッセージが入っていた。
そっか、もうお昼なんだ。
私は、紫苑に返信をしてからしばらく何も考えず流れ行く雲を眺めていた。
「沙奈、大丈夫か?」
この声は、冨山さん?
「調子はどうだ。
体を揺すっても全然起きないから心配しただろう。」
そう言って、冨山さんはベッドサイドの椅子に腰を降ろした。
「冨山さん。
冨山さんは、あの日何があったか知ってますか?」
「あの日?」
「はい。
私が、父から捨てられた日のことです。
知ってますよね?」
冨山さんは、私の言葉を聞いて穏やかな表情から難しい表情に変わった。
「今は、言えない。
今の沙奈に、受け止めきれるとは思えない。
人生は知らない方がいいことだってある。
沙奈の母親がよく言ってたと教えただろう?」
たしかに、そうかもしれない。
私の母は、よくそう言ってたんだよね。
だけど、私。
何も知らないままでいいのかな?
夢に見なければ、思い出すことはなかったけど、ずっとこのもやもやを抱えながら生きていかないといけないの?
冨山さんは今の弱い私では全てを受け入れることが出来ないと思っている。
「私、あの日の記憶はそっくり無くなっていたんです。
だけど、昨日の夜夢を見ました。
夢で見ただけでも、すごく辛くて怖くて過呼吸を起こしかけた…
苦しくて怖くてたまらなかった…。
だから、冨山さんの言うことは正しいかもしれません。
それでも、知らなければいけないことだってたくさんありますよね。
逃げてはいけないことがありますよね?
そうじゃないと、私。
ずっと前を向いて生きていけない気がして…」
冨山さんは、何も話さず椅子に座ったまま動こうとはしなかった。
しばらく時が流れてから、冨山さんはやっと口を開いた。
「沙奈。
沙奈が真剣に過去と向き合う覚悟はよく分かった。
沙奈に話して、過去と今を断ち切って気持ちが楽になるのであればそうしてあげたい。
少しでも沙奈の気持ちを軽くしてあげたいから…。
でも、今はダメだ。
沙奈がもう少し、体調が良くなって心に余裕を持てない限りは話せない。」
心の余裕って何?
私、そんなに余裕がないように見えるの?
「どうして…。
心に余裕がないと思っているんですか。」
「昔の沙奈は、自分の心を失ったかのように自ら発言することはなかった。
何でも、自分で決めることなんてできなかった。
あの頃の沙奈に比べたら、今の沙奈は大きく進歩してるとは思っている。」
「それなら…」
「でも、それだけではダメなんだ。
沙奈、ここ最近で沙奈の心にたくさん大きな負担がかかっているんだぞ。
自分の心の中へ辛い気持ちをたくさん詰め込んでしまったから、過呼吸を引き起こした。
沙奈に辛い過去、特にあの日の記憶なんて話したらまた心が窮屈になる。
窮屈になった心が、破裂したらそれこそ取り返しのつかないことになる。
だから、もう少し沙奈が自分の気持ちを誰かに話すことができるようになったり、辛い時や苦しい時に誰かに頼れるようにならない限りは、俺の口からは到底話すことなんてできないよ。
だって、今の沙奈。
何でも自分で抱え込もうとしてるじゃん。
心配なんだ俺。
沙奈の心が壊れないか。」
冨山さんは温かい手で私の頬に触れた。
昔から、冷めた表情をしている冨山さんだけど、本当は誰よりも心が優しくて温かい人だった。
冨山さんの言葉1つ1つには、私のことを思う気持ちが含まれている。
十分過ぎるほど。
目を覚ますと、私はベッドの上にいた。
窓の外を見てみると、太陽はもう1番高いところに昇っていた。
「沙奈、起きたか?」
携帯で時間を確認すると、そう紫苑からメッセージが入っていた。
そっか、もうお昼なんだ。
私は、紫苑に返信をしてからしばらく何も考えず流れ行く雲を眺めていた。
「沙奈、大丈夫か?」
この声は、冨山さん?
「調子はどうだ。
体を揺すっても全然起きないから心配しただろう。」
そう言って、冨山さんはベッドサイドの椅子に腰を降ろした。
「冨山さん。
冨山さんは、あの日何があったか知ってますか?」
「あの日?」
「はい。
私が、父から捨てられた日のことです。
知ってますよね?」
冨山さんは、私の言葉を聞いて穏やかな表情から難しい表情に変わった。
「今は、言えない。
今の沙奈に、受け止めきれるとは思えない。
人生は知らない方がいいことだってある。
沙奈の母親がよく言ってたと教えただろう?」
たしかに、そうかもしれない。
私の母は、よくそう言ってたんだよね。
だけど、私。
何も知らないままでいいのかな?
夢に見なければ、思い出すことはなかったけど、ずっとこのもやもやを抱えながら生きていかないといけないの?
冨山さんは今の弱い私では全てを受け入れることが出来ないと思っている。
「私、あの日の記憶はそっくり無くなっていたんです。
だけど、昨日の夜夢を見ました。
夢で見ただけでも、すごく辛くて怖くて過呼吸を起こしかけた…
苦しくて怖くてたまらなかった…。
だから、冨山さんの言うことは正しいかもしれません。
それでも、知らなければいけないことだってたくさんありますよね。
逃げてはいけないことがありますよね?
そうじゃないと、私。
ずっと前を向いて生きていけない気がして…」
冨山さんは、何も話さず椅子に座ったまま動こうとはしなかった。
しばらく時が流れてから、冨山さんはやっと口を開いた。
「沙奈。
沙奈が真剣に過去と向き合う覚悟はよく分かった。
沙奈に話して、過去と今を断ち切って気持ちが楽になるのであればそうしてあげたい。
少しでも沙奈の気持ちを軽くしてあげたいから…。
でも、今はダメだ。
沙奈がもう少し、体調が良くなって心に余裕を持てない限りは話せない。」
心の余裕って何?
私、そんなに余裕がないように見えるの?
「どうして…。
心に余裕がないと思っているんですか。」
「昔の沙奈は、自分の心を失ったかのように自ら発言することはなかった。
何でも、自分で決めることなんてできなかった。
あの頃の沙奈に比べたら、今の沙奈は大きく進歩してるとは思っている。」
「それなら…」
「でも、それだけではダメなんだ。
沙奈、ここ最近で沙奈の心にたくさん大きな負担がかかっているんだぞ。
自分の心の中へ辛い気持ちをたくさん詰め込んでしまったから、過呼吸を引き起こした。
沙奈に辛い過去、特にあの日の記憶なんて話したらまた心が窮屈になる。
窮屈になった心が、破裂したらそれこそ取り返しのつかないことになる。
だから、もう少し沙奈が自分の気持ちを誰かに話すことができるようになったり、辛い時や苦しい時に誰かに頼れるようにならない限りは、俺の口からは到底話すことなんてできないよ。
だって、今の沙奈。
何でも自分で抱え込もうとしてるじゃん。
心配なんだ俺。
沙奈の心が壊れないか。」
冨山さんは温かい手で私の頬に触れた。
昔から、冷めた表情をしている冨山さんだけど、本当は誰よりも心が優しくて温かい人だった。
冨山さんの言葉1つ1つには、私のことを思う気持ちが含まれている。
十分過ぎるほど。