すてきな天使のいる夜に
私は、無事に退院することができた。
「沙奈、退院おめでとう。」
退院の日に、音羽と瑛人が私の携帯にメッセージを入れてくれた。
今日は、平日で学校の日。
授業の合間を見て、メッセージをくれた事が嬉しかった。
「よく頑張ったな、沙奈。」
紫苑は、そう言って、私の頭を撫でてくれた。
食事を含めたリハビリも、体力を戻すためのリハビリも、発作をコントロールしながら頑張れたのも紫苑や翔太、冨山さんや大翔先生、それから幼なじみの2人がいてくれたからだと思う。
「沙奈、紫苑が今車を正面入口まで移動してくれているから、ちょっとここに座って待っててな。
俺は、退院の会計をしてくる。」
翔太は、私に待合室のソファーに座っているように伝え、隣に荷物を降ろし退院のお支払いをしてくれた。
携帯を見ていると、大翔先生が来てくれた。
「沙奈。
退院、おめでとう。
家に帰ったら、守ってほしいことがいくつかあるから話すね。
まず、人混みに行く時には必ずマスクをつけること、走ってはいけないこと。あと過労の防止に務めてほしい。これは医者として。
沙奈、絶対に無理はするな。
少しでも、苦しかったり辛いことがあったら紫苑や翔太にちゃんと頼ること。
俺も、沙奈の味方だから我慢せずに話してほしい。
約束してくれるか?」
大翔先生は、中腰になってから私に小指を差し出し、私もそれに答えるように自分の小指を、大翔先生の小指へ絡めた。
「沙奈、寂しくなったらいつでも連絡していいからな。」
耳元で優しく、大翔先生は囁いた。
心臓が、口から出そうな程強く速くなっていった。
「はい。」
「沙奈、お待たせ。
あっ、大翔。
沙奈のこと、本当にありがとう。」
「いいんだよ。
俺の方こそ、沙奈のことで相談に乗ってくれてありがとう。」
「当たり前だろう。」
相談って何だろう?
私は、2人の会話に全く頭が追いついてこなかった。
「沙奈の頭の上に、はてなマークがいっぱい浮かんでいるけどな。」
そう言って、紫苑は笑った。
「沙奈、家に帰ったら紫苑と翔太から話を聞いて。」
大翔先生は、それだけ伝え私に手を振ってから診察へと戻った。
「沙奈、少し外が肌寒いからカーディガン羽織った方がいいかもしれない。」
紫苑に、言われ入院した時に来ていた黒のカーディガンを羽織った。
「今日は、退院のお祝いしようか。
久々に、3人でご飯が食べられるからな。
沙奈、何か食べたいものはあるか?」
食べたい物か…。
「そういえば、沙奈って食べ物では何が1番好きなんだ?」
唐突な、翔太からの質問。
考えたこと無かったな…。
だけど、1人で食べるご飯より紫苑や翔太と一緒に食べるご飯が1番美味しい。
きっと、何を食べるかというより誰と食べるかが大切で、1番好きな食べ物というより、2人と一緒に食べるご飯が1番好き。
だけど…。
恥ずかしくて言えなかった。
「何でも…。好きだよ。
2人が一緒にいてくれるなら。」
精一杯の気持ちを振り絞り、私はそう答えた。
「沙奈…。
ありがとうな。
俺も、沙奈と食べるご飯は格別に美味しいよ。」
「嬉しいな。
沙奈の口から、そんな言葉が聞くことができるなんて。
俺も、翔太と沙奈と一緒に食べるご飯が1番好きだよ。
これからも、一緒にご飯が食べられる時には一緒に食べような。」
優しい2人の言葉。
同じ気持ちで、食事を摂っていたことが嬉しかった。
しばらく車に揺られながら、気づいたら私は眠りについていた。
途中で紫苑と翔太はご飯の買い出しにスーパーへと寄ってから家に無事帰ってくることができた。