すてきな天使のいる夜に
家の扉を開けると、見知らぬ靴が置いてあった。
「紫苑、お客さんが来てるの?」
「うん。大翔が遊びに来てるんだ。
大丈夫だった?」
「うん。」
私は、急いで革靴を脱ぎ大翔先生のいるリビングへ小走りで向かった。
「大翔先生!」
「沙奈。こんにちは。
それより、走ったらダメだろう?」
会える嬉しさが先走り、病気のことを忘れ小走りになっていた私を、大翔先生は自分に抱き寄せることで私の動きを止めていた。
「沙奈、大翔が来てくれた事が本当に嬉しいんだよ。」
「ありがとう。
俺も、沙奈に会えて嬉しいよ。」
大翔先生にそう言われ、私の体を軽々と持ち上げ自分と向かい合う形で自分の膝の上へ座らせた。
そういえば、紫苑がいるけど大翔先生こういうことしててもいいの?
だけど、こういうことは紫苑や翔太も普通にしている。
コミュニケーションの一貫として、捉えればいいのかな?
「沙奈、今の所は喘息落ち着いているか?」
「落ち着いてます。
最近は、発作の前触れが分かるようになって何とか吸入器で発作が出ないように対応してます。
でも、それでも間に合わないことがあって…」
「そっか。
いい兆候だ。
沙奈。喘息は上手に付き合っていかないといけない病気なんだ。
少しでも、自分でそうやって発作のコントロールができるようになってるのはいい兆候なんだよ。
だからと言って、1人で全て対応することは沙奈にも負担がかかりすぎるからその時はすぐに頼って。」
「大翔先生、ありがとうございます。」
「沙奈、お昼は食べたか?」
「今日は、お弁当を持って行ってないからまだだよな。
何か、食べられそうか?」
「そうか、紫苑。もしかして沙奈。食欲がないか?」
「そうなんだ。
病気になる前から、沙奈は夏の暑さに弱くて、食欲が落ちて脱水になることもあって。
少し、食べられそうな物をと思ってるんだけど中々難しいんだよな。」
「ごめんね、紫苑。」
「謝らないで。
だけど、少しでも栄養のある物を食べてほしいんだけど、冷製麺とかなら食べられそうかな?」
「うん。ありがとう。」
「いい子だ。
そしたら、沙奈。
制服着替えて来な。」
ご飯を食べること。
小さいこと、誰もが当たり前のようにできることが私にとっては難しい。
それを理解してくれている紫苑は、いつも優しく褒めてくれる。
私は、部屋へ向かい膝丈まである紺色のワンピースの部屋着へ着替えてから、髪の毛を軽く整え再び大翔先生と紫苑の待つリビングへと向かった。