すてきな天使のいる夜に
「入院していた時もそうだけど、沙奈って本当に部屋着が可愛いよな。
パジャマとかも、女の子らしくて可愛かったよな。」
私の部屋着を見て、大翔先生はそう言った。
あまりにも唐突だから、心臓がうるさいほど早く動いている。
でも、やっぱり先生に褒めてもらえることは嬉しい。
「沙奈は、オシャレだから。
それに、洋服選ぶ時だって真剣に何時間もかけて選んでるんだよ。
自分の着たいもの、長く着られそうなものを考えながら選んでるんだって。」
1人では好きな物や買いたいものを選んで買うことができないから、私は紫苑や翔太と一緒に買い物へ行く。
もちろん、2人に買い物を頼まれることもあって、それはメモがあれば買いに行くことはできる。
洋服を選んだり、化粧品を選んだりする時は必ず紫苑や翔太に着いてきてもらわないと、自分で買うことが出来ない。
「優柔不断なだけ。自分のこと、分かってないから選べないだけだよ。
昔から、私は何も決められないの。
何も…。」
それ以上、何も言わなかったけど何も決めることが出来ないから私は父に捨てられたのかもしれない。
考えて、物を言わないとよく父に叩かれていた。
言葉選びには、極限まで気を遣い全身の神経を遣いながら父とは会話をしていた。
だけど、そんな中でついに何を話せば叩かれないか、何を言うことが正解なのか頭の中でぐるぐると回って、父と会話する事ができなくなっていた。
父の機嫌をとる事でさえできない、そんなダメな自分だったから捨てられても仕方ない。
だから、この考えてしまう癖は自分でも受け入れる事ができない。
「それでも、いいじゃないか。
それも、沙奈の良さだって出会った時から思ってるよ。
1人で決められない程、物事に対して沙奈は真剣に考えることが出来る。
それって、大人でも難しいことなんだ。
沙奈は、どうでもいいって前に言っていたけど、きっとそんなことはなくて、その先のことを考えると、前に進むことができなかったり、決断ができなかったりするんだよ。」
私の表情を読み取り、ご飯を食べる箸を置き紫苑はそう話した。
物事に対する見方が、私にはよく分かっていないだけとは思っていたけど、もしかしたら違うのかもしれない。
「そうだな。
真剣に考えることは、いい事だよ。
大人になっても、それが出来ない人だってたくさんいるからな。
それに、迷いに迷った決断に間違いなんてないからな。
迷っていた時間も、全て生きる術を身につけるための学びでもあるんだから。
迷ったり、考えたりすることは何も間違ってなんていないよ。」
大翔先生も、私の思っていたことを見透かしたかのようにそう話していた。
私は、ずっと1人だったから間違った選択をしてしまったらいけないと思っていた。
だから、何事に対しても時間が無いと決められなかったし、決断することができなかった。
たしかに、今でもそれが影響して自分で決められないことも多くある。
そんな自分が、情けないと思っていたけどそんなことはないのかもしれない。
どんな時でも、きっと迷っていた時間は貴重で、その経験が成長に繋がっていく。
私も、少しずつ前に進むことができているのかな。