すてきな天使のいる夜に
ーside 大翔ー



少しだけ、沙奈の心の声を知ることが出来て嬉しかった。



それと同時に、何とも言えない沙奈の壮絶な過去がうっすらと浮かび上がり、心が張り裂けそうな思いになった。




すべては知らないけど、きっとこの子はたくさん我慢し、大人として扱われ子供としての時間が短かったのだと思う。




この子の年齢とは思えないほど、考えや心がしっかりと出来上がっている。



もし、親に感情を無理やり抑え込まれ成長してきたのだとしたら、放っておくわけにはいけない。



それに、大人になってしまった分今は子供に戻してあげたい。



辛い思いや、苦しい思いをたくさんしてきたのであればこの手で救っていきたい。



「沙奈、寝ちゃったみたいだな。」




「そうだな。学校もあったから、疲れたんだろうな。」




俺の膝に頭を乗せ、小さく丸くなりながら眠る沙奈を見ていると思わず表情が和らいだのが分かった。



「沙奈、やっぱり綺麗だよな。」



思わず、紫苑にそう口にしていた。




「そうだろう。


沙奈は、自慢の妹だから。


俺達も、沙奈の笑顔や寝顔、それに感謝の言葉に弱いんだ。


兄という事を忘れ、沙奈を女性として見てしまわないかって、内心ヒヤヒヤしているところもある。


血の繋がりが無いから、余計かもしれないけど…。


だけど、繋がりがなくとも沙奈は俺の大切な妹だ。


だから、大翔。


沙奈のこと本気で好きなら、幸せにしてあげてほしい。


この子がもう、理不尽に傷つけられないように守ってほしいんだ。



たくさん傷ついた分、この世で1番幸せになってほしいと思う。




だから、もし沙奈を傷つけたりしたら俺はいくら親友であつても、許さないからな。」




真剣な眼差しで紫苑はそう話した。



そんなことは分かってる。



沙奈の未来に、俺が寄り添うことが許されるのであれば何だってする覚悟だから。



沙奈の幸せを、1番に願い叶えたい。



「分かってる。


俺は、そんな中途半端な気持ちで沙奈と関わっていない。


主治医としてもそうだけど、1人の男として沙奈のこと守りたいと思うんだ。


それに、沙奈が傷ついたり苦しんだりしている所を見ていると放っておけないんだ。




もし、沙奈と一緒になることができるならこの手でこの愛おしい温もりを一生かけて守り抜く。



今よりもっと、笑顔にしてみせる。



安心して、これからも俺に任せてくれないか?」




紫苑に相談した時、俺の気持ちを認めてくれるとは思っていなかった。



沙奈のことを初めて話した時は、真剣に話を聞いてくれて、俺の気持ちを受け入れてくれた。



それに紫苑が、沙奈のことを心配するのは無理ない。



それだけ、紫苑と翔太は沙奈を大切に思っているから。



「俺、大翔になら沙奈を任せてもいいと思ってる。


だけど、高校生だからもう少し待っててくれ。


女の子は、16歳の歳で結婚できるけどさすがにそれは、まだ俺は許可できない。」



分かってる。



沙奈が、高校を卒業するまでか成人を迎えるまでは待とうと思っている。



沙奈のためなら、何年だって何十年だって待つ。



「分かってるよ。」




この愛おしい温もりを自分だけの物にできたら。



本当は、紫苑や翔太であっても沙奈に触れてほしくないって考えてしまう。



いくら、兄とはいえ血縁関係っていうわけではないから、2人が沙奈に手を出さないか心配にはなる。



1つ、屋根の下に男性2人と暮らしているからいつ何があってもおかしくはない。



そんなこと、考えている自分が情けないとか思うけどそれが本音でもあった。



でも、2人がいてくれたらから俺も沙奈と会うことが出来たし、こんなにも傍にいることができている。




早めに2人が沙奈を救ってくれたから、沙奈は今平穏な日常を過ごすことが出来ている。



だから、紫苑と翔太には感謝をしてもしきれない。
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