すてきな天使のいる夜に
ーside 紫苑ー



想像を絶する、沙奈の痛々しい過去。



それから、体に刻まれた傷跡。



何より、完全に修復することなんて出来ない心の深い傷と闇。



だけど、少しずつ沙奈は変わろうとしている。



暗闇の中を、迷い続け沙奈にやっと今一筋の光が見えてきたような気がした。



その小さな変化は、きっと大きく前へ進んでくれると思う。



それに、沙奈の過去を知ることが出来たから俺達にできることは必ず何かしらある。



今まで以上に、沙奈を注意深く見守ること。



沙奈に、自分を大切に思う気持ちを高めてもらうこと。



沙奈に1番足りない、自尊心を大切にする気持ちを身につけてほしい。



そのためにも、今俺たちは沙奈へ証明していかなければならない。



沙奈は、たった1人の大切な妹であること。



家族であること。



想っている人、支えてくれる人がたくさんいるということ。




産まれてきてくれてありがとうという気持ちも。



最初は、俺と翔太だけだったけど今は色んな人が沙奈に手を差し伸べてくれている。



大翔もそうだけど、沙奈の親友の音羽ちゃんや瑛人君。



それから、冨山さんもそうだったよな。



冨山さんは、何も話してくれないけど沙奈が入院している時には何回も頻回にお見舞いに来てくれていたし、1番沙奈の体調を気にしてくれて、少しの変化も見逃すことなんてなかった。




あんなに、患者さんに対しても周りの人間に対してもどこか冷めている冨山さんが、最初どうしてそこまで沙奈に関わってくれていたのかは分からなかった。




だけどその理由はすぐに分かった。




沙奈に対して、すごく優しく温かみのあるそんな瞳をしていた。



それは、まるで家族のように見ている気がした。



冨山さんは、何も教えてはくれなかったけど沙奈が、父親の元へ帰されるまでは冨山さんの家に預けられていたという話を少しだけ聞いたことがある。



詳しい事情についてはよく分からないけど、それはそれで俺や翔太が入り込むようなことでは無い。


きっとそれは、冨山さんと沙奈の大切な思い出だと思うから。



「沙奈、これから大丈夫かな。


こんなにしっかり、過去のことを話せるなんて思わなかった。」




翔太は、不安な表情をして沙奈を見つめていた。



「大丈夫。


沙奈が、こんなにしっかりと話すことができたのは、きっと心の中でたくさん葛藤しながらも過去を乗り越えようと少しずつ成長しているからだと思うんだ。



前を向こうと、頑張ってくれている証だと思う。



だから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ。」




俺は、心配している翔太に笑いかけ翔太の肩に手を乗せた。




「これからもまだまだ、心配な事はきっとたくさんあるとは思うけど、助け合って行こう。」




「当たり前だよ。」



翔太はそう言って、やっと微笑んでくれた。



沙奈が少しずつ成長している今、今まで以上に沙奈の変化を見逃さないようにしていかなければならない。



心の硬い扉を、少しでも開くことが出来たのであれば、もっと沙奈に寄り添っていきたいと思う。
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