すてきな天使のいる夜に
それから、1日授業にも音羽や瑛人との会話にも身が入らず気づけば放課後になっていた。
「沙奈…。」
あの封筒…。
どうすれば…。
私1人だけでも、病院に行く事が出来たなら。
だけど。
そう考えるだけでも、身の毛が経つほどに怖い。
やっぱり、紫苑達に話した方がいいのかな。
隠しきれるなら、このまま隠し通したい。
今までもずっと紫苑達に散々迷惑かけてきた。
それなのに、病気が見つかってこれからも迷惑をかけ続けることになれば、私はいらない子って捨てられてしまうのではないか。
あの日、あの時の夜のように。
最後に見た、父の姿は鬼のような目付きで私を睨んでいたんだっけ。
汚い物を見るような目で、私を見つめていた。
「身体の弱いお前なんていらねえ!
あいつは、ろくなもんじゃねえな!
こんな失敗作産みやがって。」
冷たい風が吹く、雪景色の広がるあの夜にそう言って私は捨てられた。
だけど…。
そんなボロボロになった私を見つけてくれて、紫苑と翔太が助けてくれたんだよね。
私を、妹にしてくれた。
温かい手を、差し伸べてくれた。
だから…。
また捨てられたら…。
私は、どう生きていけばいいのだろう。
「沙奈!」
音羽の呼ぶ声に、私は自分の世界から引き返されていた。
「ごめん。なんだっけ。」
「授業、もうとっくに終わったよ。早く帰ろう。」
音羽には申し訳ないけど、今は楽しく話せる心の余裕がない。
「ごめん。今日は私先に帰るね。」
「あっ、ちょっと沙奈!」
机の横に掛けられたカバンを手に取り、私の腕を掴む音羽の手をそっと離した。
それから、何度か音羽の呼び止める声に、私は振り向くことなく私の足は海岸へと向かっていた。
このまま死のうかな。
死ねば、楽になれるのかな。
どうせ、あの夜に死ぬはずだったんだから。
だけど…。
怖い。
限りなく広く、深い世界へ私は飛び込む勇気なんてなかった。
足がガタガタと振るえ竦んでいた。
いつから、私は生きたいと思うようになったんだろう。
この世のもの全てがどうでもよかったはずなのに。
今は、紫苑や翔太の傍にずっといたいと考えてしまう。
2人からもらった愛が大きくて、温かくて。
悩んでいる時には、いつでもゆっくり話を聞いてくれた。
そんな温もりが大好きだった。
もっともっと、私を愛して。
もっともっと、私の傍にいて。
気づいたら、私は色んな物を求めるようになって欲張りになっていたのかもしれない。
傍にいてくれない時間が長いと、不安で仕方なかった。
仕事で遅くなるって分かっているときも、どこかで帰ってこなかったらどうしようって考える日もあった。
だけど、私の思っていることは2人には話せていない。
ただの、重すぎる妹になってしまうから。
もっともっとなんて言ったら、さすがに呆れられてしまう。
だから、素直に2人に甘えることができない。