地味で根暗で電信柱な私だけど、あなたを信じていいですか?
「どうしたの、何か悩み事?」

 三十六回目のため息をついた長野ちゃんに私は尋ねた。正直、私が見た夢よりこっちのほうが現実的問題として重要だ。そもそも佐藤さんが女の子の誘惑に負けるなんてあり得ない。

 あり得ない、よね?

「……」

 長野ちゃんが僅かに口を開きかけ、やめる。

 彼女はふるふると首を振った。

「別に何でもないですよぉ。ゆかりさんは気にしなくていいですぅ」
「えーと」

 何だろう。

 ソフトに拒否られた?

「それよりぃ」

 長野ちゃんが急に笑顔を向けてくる。それはもうわざとらしいにも程があるくらい露骨な作り笑いだった。

「今日の忘年会楽しみですぅ。ゆかりさんも楽しみですよねぇ?」
「えっ、まあ、そうね」

 そう。

 今日は私たちの勤めるラズベリー堂書店の忘年会がある。

「今夜は彼が迎えに来てくれるから思う存分飲めますよぉ。ゆかりさんも倒れるくらい飲んでくださいねぇ」
「いや、倒れるまで飲むのは駄目でしょ」
「えーっ、ゆかりさんが倒れたら佐藤さんを呼ぶのにぃ。それでお姫様抱っこで連れ帰ってもらうんですよぉ」
「……」

 うーん。

 お姫様抱っこで家までは無理かな。

 私、地味に重いし。
 
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