夢みたもの
航平に返事をする事が出来なくて、あたしは肩をしぼめてうつむいた。


「ごめん」

「ひなこが隠し事って、珍しいよね?」

「そう言う訳じゃ・・・」

「だって、言えないんでしょ?」


ますます不機嫌になった航平は、深いため息を吐く。



どうしたら良いんだろう?

航平はいつも優しい。

その事に甘えているあたしは、機嫌の悪い航平への対応が分からなくて、黙ってうつむく事しか出来ない。



「なぁに?痴話ゲンカ?」


その声に振り向くと、同じく掃除当番の葵が、乾拭き用の雑巾片手に近付いてきた。


「仲が良いのは結構だけど、後にして貰えないかしら?」

「葵」


思わずすがるような思いで葵を見た。

そんなあたしに葵はチラリと視線を向けると、腕組みをして航平に向き直る。


「今は掃除中なの」

「あぁ・・・ごめん」

「まったく。あなた達、嫌っていう程一緒に居るんだから、たまには離れた方が良いじゃない?」


「それに・・・」と葵は航平を見る目を厳しくして言った。


「ひなこは、堤君の所有物じゃないわ」


「構いたくなる気持ちも分からなくないけど・・・」そう付け加えて肩をすくめると、葵は航平に苦々しく笑いかけた。


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