夢みたもの
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そのドアの前で、あたしは3度目の深呼吸をした。


1度目は、航平に声をかけられて、ドアを開ける事すら出来なかった。

2度目は、中から出てきた彼に驚いて、自分が逃げ出した。

そして3度目。

もう誰にも邪魔されないし、逃げ出すつもりもない。



胸ポケットからメモを取り出して、内容をもう一度確認する。


16時ちょうど。

指定された時間。


あたしはドアをノックすると、緊張しながら音楽室のドアを開けた。



「・・・?」


音楽室に入ったあたしは、少し拍子抜けして首をかしげた。


ピアノの音が聞こえないと思ったら、教室の端に置かれたグランドピアノの蓋は閉じられている。



早過ぎたかな?

そう思いながら、人気のない教室をぐるりと見回すと、教室の一番奥、窓際の席に彼の姿を見つけた。


眠っているのか、机の上に突っ伏していて動かない。

夕日に照らされた茶色の髪が明るく輝いて、遠目から見ても綺麗だった。


緊張が高まって、耳のすぐ近くで心臓の鼓動が聞こえる。

あたしは息を飲むと、鞄を握り締めて、静かに彼に近づいて行った。


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