夢みたもの
「あの・・・」


残り1Mまで近づいた時。

あたしは思い切って声をかけた。


それ以上近付くのは抵抗がある。

今朝の事が尾を引いているのかもしれないけれど、何となく近寄りがたかった。



「あの・・・叶君?」


もう1度声をかけると、彼は微かに身動ぎする。


「眠ってるの?」


少し背伸びをして覗き込むと、腕の隙間から動く気配のない瞼が見えた。

長いまつげに、乱れた髪がかかった横顔は、ドキっとする程艶めかしい。



何て綺麗な顔なんだろう。

学校中の噂になるのも分かる気がする。



あたしは息を飲むと、もう一歩彼に近付いた。



その時。


突然、彼の腕が動いて、あたしの手をつかんだ。



「・・・きゃっ!!」


突然の事に驚いたあたしは、持っていた鞄を落として声を上げた。

慌てて離れようとしたけれど、彼の手はあたしの手をしっかり握り締めていて、離れる事が出来ない。


「は、放して!」


あたしは手を振りほどこうと、腕を上下に振り回した。


「何なの!?逃げないから・・・放して!?」


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