夢みたもの
「どうぞ・・・紅茶で良かったかしら?」


席に案内してくれた店員が、あたしに向かって首をかしげる。


「コーヒーが良ければ用意しますけど?」

「あ、紅茶で大丈夫です」


あたしがそう言って首を横に振ると、店員はニッコリ笑ってユーリに笑いかけた。


「可愛い彼女ね?」

「・・・え?」

「悠里君が誰かを連れてくるの、初めてなのよ?」


わざとユーリに聞こえるぐらいの声であたしに耳打ちすると、店員は楽しそうに笑った。


「日本に来たばかりなのに、やるわね、悠里君。こんなに可愛い彼女が居るなら、もっと早く連れてきてくれれば良かったのに」

「あ、あの・・・私は別に、そういうんじゃないですけど・・・」

「あら、そうなの?」


店員がそう言うのと同時に、店員の前にユーリのノートが突き付けられた。


「はい、はい」


店員はノートを見て苦笑すると、持っていたトレーを右脇に抱え直して一礼した。


「失礼いたしました。どうぞ、ごゆっくり」


そのまま綺麗に後ろを振り返ると、入り口の方に歩いて行く。

その洗練された動きに、あたしが後ろ姿を目で追っていると、ユーリが申し訳なさそうにノートを差し出した。


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