夢みたもの
「何バカ騒ぎしてるの?」

「葵」


鞠子の背中に圧しかかりながら笑っているのは、昨日から多忙と噂された葵だった。


「生徒会の仕事、終わったの?」

「えぇ。大した用じゃないのに、呼び出されて参るわ」


明らかに不機嫌な色を灯した真っ黒な瞳。

それを隠すように、一之瀬葵(イチノセ アオイ)は長いまつげで瞳を覆った。

背中まで伸びたストレートの黒髪に切れ長の瞳。

『冷静沈着』『才色兼備』・・・賞賛の言葉は欲しいままの葵は、誰もが認める学校一の美人。ただ、性格は自他共に認めるS。

それが無ければ、絵に書いたように完璧な、一之瀬流茶道家元の跡取だった。


「・・・葵ちゃん、いい加減どいてよぉ」

「あら、ごめん。気付かなかった」


コロコロと笑いながら葵は鞠子の上から離れると、近くにあった椅子を引き寄せて座る。


「もう、お昼が終わっちゃうじゃない」


そう言いながら、葵は手にしたサンドイッチを勢いよく食べた。


「副会長は大変だね」


食べっぷりに感心しながらそう言うと、葵はパックの牛乳を飲みながら、眉だけを上げてこっちを見た。

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