夢みたもの
「でも・・・それって、治るんですよね?」


初めて聞く病名。

あたしは恐る恐るそう聞いた。



機能上問題無いのなら、ユーリは喋れるようになる筈。

治らないなんて、信じられない。



「だって、機能上問題無いんですよね?」

「そうだね」


崇さんは小さく笑った。


「数日で治る人も居るし、数ヶ月かかる人も居るらしい」

「数ヶ月・・・」

「悠里は・・・もう2年になる」

「・・・2年・・・」



気が遠くなりそうな時間だった。

自分にとって、声が出る事は当たり前過ぎて、喋れなくなるなんて想像出来ない。

しかも2年なんて・・・



「突然声が出なくなって、最初は悠里も慌てていた。それに、少し日が経った頃には、擦れ声だけど、僅かに声を発する事も出来た」

「それじゃ、治るんじゃ・・・?」

「機能上はね。でも悠里は、途中で治療を放棄した」

「え?」

「理由は分からない。いくら聞いても答えようとしない」


そう言った崇さんは、表情をさらに曇らせる。

あたしは、何も言う事が出来なかった。


ユーリが喋れなくなった理由は分かったけれど、あたしにはどうする事も出来ない事も分かった。

それがもどかしくて、聞こえてくるピアノの音を聴きながら、あたしは俯く事しか出来なかった。



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