夢みたもの
「・・・・・」


背中越しに聞こえる戸惑いを含んだ航平の声。



航平を傷つけた。



自業自得なのに胸が痛む。

どうやって説明したら、航平は許してくれるだろう・・・


そう思いながら口を開きかけたあたしは、振り向いた航平を見た瞬間。

全ての思考がストップした。


そこに居たのは、見た事が無い航平。


・・・・違う。

以前、たった1度だけ見た事がある。

あれは確か、宮藤君があたしをからかった時。

あの時一瞬だけ見た、相手を圧倒する威圧感を放った航平・・・・

今、目の前に立っている航平は、あの時の航平そのままだった。


怖い。


背筋が冷たくなるような航平の視線に、あたしは固まったように身動き出来なくなった。



ニコニコ笑って優しい航平。


あたしが知っている航平はそれだけ。

それ以外の航平が・・・、今、目の前に居るような航平が居るなんて、あたしは知らなかった。


「弁解しないの?」


小さいけれどよく通る声で、航平はそう言った。


「前にも言ったけど、何も言わないって事は、俺の好きに解釈して良いって事だよ?」

「・・・・・」


航平の雰囲気に圧倒される。

あたしは、ただ航平を見つめ返す事しか出来なかった。

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