夢みたもの
正直に話すべきだと思った。


今を逃したら・・・、今ここで誤魔化したら・・・、きっと、航平はあたしから離れていく・・・


それだけは、絶対に嫌だった。


幼なじみの航平は、一緒に居るのが当たり前。

離れるなんて考えられない。



一息吐いて心を落ち着かせると、あたしは航平を真っ直ぐ見上げた。


「ユーリは・・・」

「叶 悠里・・・だっけ?下の名前で呼ぶ程親しいんだ?」


挙げ足を取るように「ふぅん?」と呟くと、航平はあたしに話の続きを促した。


「それで?」


今までにない、航平の冷たい反応に、一瞬気持ちが折れそうになる。

あたしは鞄を握り締めると、再び口を開いた。


「・・・ユーリは、あたしが今の家族に引き取られる前、ほんの少しの間だけ一緒に暮らした事があるの。施設を逃げ出したあたしを匿って、面倒を見てくれた家族が居て・・・・」

「・・・・・」

「最初は全然気付かなかったの。でも、ピアノを聞いて・・・」

「ピアノ?」


小さく呟いた航平に、あたしは何度も小刻みに頷き返した。



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